作品によせて

パラリンピックが始まりますが、その中にある競技、シッティングバレーボールは、1956年に戦争で負傷した人によって考案された歴史があり、日本でチームができたのは1992年だそうです。

かこは「おすわりバレー」という名前でこれを「バレーボールごっこ」遊びとして1990年出版の『こどもの大宇宙1おにごっこ じんとりのあそび』(農文協・下)で紹介しています。家の中のような広さが限られた室内でこどもたちが遊ぶためのもので、ボールではなく「かみふうせんやビニールぶくろに くうきを いれ、ふくらまして」ボールとすると解説があります。

この本の表紙を飾るピクトグラムのような紙粘土の立体人形はかこの手作りです。
この本を執筆した時には、まだまだパラリンピックやその競技は今のように知られていませんでした。

1988年のパラリンピックから、正式種目に採用されたボッチャは、ヨーロッパが発祥とされているそうですが、『あそびの大惑星8 あんただれさ どこさのあそび』(1992年農文協)では、世界のボールあそびの一つとして、ボッチャー(ドイツ)を紹介しています。かこさとし、先見の明があったのでしょうか。うーん、まいりました!

前回の「あとがきから」でご紹介した『金色のエネルギー』の「金烏玉兎」ではありませんが、小学生時代、四字熟語というのを習ったとき「五里霧中」とか「朝令暮改」とか、一応の意味はわかっても、(一体そんなことがあるのかなぁ)というのが正直な感想でした。

「滅茶苦茶」というのも四字熟語に入っていると知ったのはつい先ごろのことです。「めちゃ」というのは強めるための言葉、英語で言えばvery とかmuch にあたるわけですが、関東地方で育った筆者が半世紀も前の子供の頃には使った覚えはありませんし、かこが話し言葉の中で使っていたのを聞いたことはありません。

しかしながら、絵本の本文にこの言葉が登場しています。『うみはおおきい うみはすごい』(2005年農文教)で、波の説明をする場面、風によって波が起こり、どんどん大きくなって船を沈めるほどの大波になると、本文は次のように続きます。

「うみは めちゃ おおきくて めちゃ すごい ところである。」

絵の説明には「ものすごく つよい かぜで ふきとばされる なみ」とあります。この本は「かこさとしの自然のしくみ地球のちからえほん」シリーズの3で、小さいお子さんに、自然のことをわかってもらおうという意図で作られ、本格的な内容ですが、全部ひらがなで書かれています。

この本が書かれた時には、この「めちゃ」という言葉はメディアを通じ全国的に使われるようになっていましたし、おこさんたちに伝わりやすい表現と思って登場させているのでしょう。かこの語感に、めっちゃ、まいりました!

ところで、ここにご紹介した絵が8月7日から藤沢市民ギャラリーで始まる「夏!かこさとし作品展」で展示されます。(会期は8月29日まで、入場無料。詳しくは近日中にご紹介します) 湘南の海が感じられる絵や元気いっぱいに身体を動かすキャラクターたちの姿、貴重な初公開の原画も数々ご覧いただけます。どうぞお楽しみに。

私たちが知っている元素記号の周期率表はロシアの化学者メンデレーエフが作ったものが元で2019年には150周年が祝われました。

『なかよし いじわる元素の学校』(1982年偕成社)によると、メンデレーフ(1834年〜1907年・下)は「14兄弟の、勉強ぎらいの末っ子。母の死をきっかけに勉学に励み、1865年ペテルスブルク大学教授となった。当時、帝政ロシアが禁じていた女子の講義の出席をゆるすなど、進んだ考えの持ち主でした。」

このメンデレーエフとほぼ同時代、ドイツのマイヤー(1814年〜1878年)は、元素の大きさ(原子容)と重さ(原子量)を比べ表にしてみて「つぎつぎおしよせる波のように、上がり下がりしながら、そのはばが、しだいに大きくなっていること」、つまり「周期をもっていることにきづいた」と同著にあります。

マイヤーの肖像とその「山また山、大波小波のくりかえし」の様子を1869年及び1884年にマイヤーが発表した論文に基づいて加古が作成した図(下)が描かれています。

「とんがった山のところは、軽い金属の元素、谷のところは重い金属の元素、山の登るところは、液体や気体になりやすい元素があり、とけにくい元素や液体になりにくいものは、山からおりるところにある」ということがわかったのです。

そしてそれを印象づけるために、なんと、かこは北斎の富嶽三十六景と広重の東海道五十三次の浮世絵を模写で登場させています。なぜ、この二人なのかといえば、それはこの二人がマイヤーと同時代に生きていたからなのです。

日本人なら一度は目にしたことのあるこの2枚の浮世絵を周期表と組み合わせることにより、マイヤーとその功績がより身近なものに感じられ記憶に残ると言うわけです。いやはや、これは、まいった!

2021/05/22

いちにち

陽がのぼり、陽が沈んで、いちにち。

それを描いている絵本といえば、『あさですよ よるですよ』(1986年福音館書店)があります。豆の子どもたちが朝起きてから夜、寝るまでの生活を通して時間という目に見えないものを知ることができるよう、各場面にはさりげなく時計があるのもそのためです。

歯磨き、洗顔、トイレに朝ホウキ、園に出かけ、たくさんいろいろなことをして、帰り道でお買い物のお手伝い、お風呂でっさっぱりしたら、お行儀よく夕食をして、ピアノの演奏で一家団欒、いちにちが終わります。ぐっすり眠る窓の外には星が瞬きます。う〜ん、ゆとりのある理想の生活。

働く大人の一日をお子さんが、楽しみながら知ることができるのが『うさぎのぱんやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)です。

朝早く暗いうちからパンやさんのいちにちが始まります。パン作りの工程がすすみパンが焼き上がると店先にはいい香りが漂う中、お客さんがやってきます。次々に焼き上がる沢山の種類のパンの中には、可愛い動物パン、美味しそうなおかずパン、世界中のパンが集まってきたようで見ているだけで幸せになります。園のお昼もみんなニコニコでパンをいただきます。

陽が傾くと賑やかなお店も閉まり、パンを作る場所はすっかり掃除も終わり明日の朝までおやすみです。見上げれば外には月が出ています。おや? 月のうさぎさんはお餅つきではなく。。。

きっと美味しいパンが食べたくなります。だからお家で作れるパン焼き方法のページもあって、愛らしいうさぎさんたちにも会えるし、パンやさんの仕事もわかるいちにちの物語。

小さいお子さんと一緒に楽しむのに、そして忙しい大人が一日の終わりにリラックスするにも、ぴったりの2冊です。

実験用の安全メガネをつけ実験衣(白衣)を着た、こどもたちとワンちゃんネコちゃんが見つめる先は、何やら大喜びのヒゲの実験者。後ろには、これぞ物尽くし、とも呼びたいほど沢山のフラスコ、ガラス管などが複雑に入り組んだ実験設備が壁のようにそびえています。

一方、そんな光景を気に留める様子もなく、視線が目の前の器具、中の臭いを嗅いでいるメガネさんは、若き日のかこさとしのような雰囲気です。手にしているものの匂いに全神経を集中してその正体を考えているようです。

冒頭の場面が登場する『原子の探検 たのしい実験』(1981年偕成社)は、日本化学会のご依頼で執筆したシリーズの一冊で、分子や原子の発見や原子記号誕生の歴史を紹介しています。

また、基本的な実験方法や注意点も列挙されています。その中には、水に溶けないガス(気体)をとる方法としてキップの装置(上)も描かれています。

この本の前扉には同じ装置が描かれ、ワンちゃんがじっと見つめています。ところがこの絵には、一つだけ実験とは関係のないものが存在しています。

舌なめずりするネコちゃんの視線の先です。その視線を感じて、横目で警戒するこの金魚の表情、無機質な実験装置が3匹の動物の視線で、親しみのあるものになっています。かこさとしならではのユーモアです。

金魚がいる水は普通の水ですから金魚に害はないはずが、ネコちゃんには要注意?! 読者の皆さまのご心配を取り払うかのように、この本の最後にはご馳走に喜ぶ2匹がいて幕となります。

半世紀以上も前のことです。筆者の通っていた小学校では月曜日の朝には、雨でない限り、全校生徒が校庭に集まって朝礼、校長先生のお話がありました。その内容はほとんど忘れてしまいましたが、訓示のようなものが多かったように記憶しています。その中で今でもはっきり覚えているのは関東大震災が起きた時のお話でした。

1923年9月1日、2学期が始まるその日、校長先生はまだ小学生で始業式を終えてお母さんと兄弟とでちゃぶ台を囲みお昼を食べていた時に大きな揺れに襲われたそうです。当時の私にしてみれば関東大震災は遠い昔のことと思っていたので、その体験をした人から直接話を聞き大きな衝撃を受けました。

地震が起きた時「日本の近代的な物理の土台を築いた一人、長岡半太郎」博士は神奈川県の三浦半島に避暑にきていて、「はるか北方に見える東京の火煙の様子を、時間を追ってスケッチし、その色の変化をこまかく記録し、数日後には彩色した絵を仕上げ」たそうです。

「人びとは3日も燃える煙を見て悪魔の雲だとさわぎ、(中略)あやしげなことを言いふらしたのを、長岡博士は正確な煙の記録を示し、魔法や陰陽術のせいでないことを人びとに教えた」と『科学者の目』(2019年童心社・上)にあります。

今でも伝えられている井戸水に毒薬がいられたという流言飛語は「伝染病をおこさぬため、生水を飲まぬようという注意があやまって伝えられたり、一部の悪質な者の策動だった。長岡博士はこうした根も葉もないデマを、科学者の目をもって一つひとつつぶし、他の学者や学生とともに救援活動をおこなう間、観察したことを冷静に記録し(中略)のちに、この大地震のようすを調べ、対策を考える上に貴重な基礎資料となった」そうです。

こうした博士の逸話を紹介し、最後にかこは次のように結んでいます。
(引用はじめ)
大きな混乱の中では、私たちはともすれば真実を見失いがちである。そういう時こそ、この科学者の冷静な目にならって、私たちも何が正しいか、何が人々に不幸をもたらしているのか、どうすれば真の発展に向かうのかを見失わぬようにしたいものである。
(引用おわり)

コロナ禍の真っ只中、この言葉は筆者の心に強くつきささります。

下は『世界の化学者12か月』(2016年偕成社)の4月の項目で「日本のすばらしい三太郎」として紹介されている鈴木梅太郎、長岡半太郎、本多光太郎の三博士。

「だるまちゃん」が「てんぐちゃん」のうちわや頭巾(ときん)、下駄を真似したくて、色々なものを集めたり、『からすのパンやさん』でたくさんのパンが並ぶ場面が印象的で、かこ作品には物尽くしがあると言われます。

第1回の自動車部品もある意味、物尽くしですが、『あそびの大惑星2 のんきな いたずらっこのあそび』(1991年農文教・上)の表紙には動物の風船がいろいろ、副題が「あそびの健康元気館」というだけに身体を使った愉快な遊びが種類豊富に登場します。

「げんきな こどもは ねても うごく」「いたずら こどもは ゆめでも わんぱく」とあるように、左右のページに、ぐっすり寝ている子どもや動物、そして虫の寝姿と共に、こどもの寝相12種類が名前付きで描かれています。

かこがセツルメント活動を記録していたノートには、こどもたちの寝相を知ってようやくその子のことを知っていると言える、といったことが書かれています。その時に集めた寝相かどうかは定かではありませんが、かつての筆者の寝相と思われるものもあるような。。。

さてさて、皆さんの寝相は何型ですか。どうやら私は2種混合型のようです?!

「マイッタなぁ」は、かこがお子さんたちの思いがけない発想や行動力に感嘆して、しばしば使った言葉です。

お子さんが興味をもったら本の隅々まで見てくださることを心得ていた、かこはじっくり見てくださる読者の皆さんにありがとうの気持ちを込めて、ちょっとしたメッセージ代わりの絵を描き込んでいたりします。

また、科学絵本であれ遊びの本であれ、面白いと興味を持っていただけるようなユーモアあふれる工夫もしています。そんな中でも、これはマイッタ!と思わず口に出てしまうような傑作(?!)場面をシリーズでご紹介します。

ご覧いただいているのは『どうぐ』(1970年福音館書店/2001年瑞雲舎)の一場面です。動く道具で一番身近な自動車は、自動運転という話題もありますが、この本が発刊されたのは1970年ですから、まだオートマチックではなく、マニュアルギアが主流の頃でした。

当時実際に自動車に使われている全部品を自動車会社から教えていただき、余すことなく描いたそうで、かこが好き勝手に増やしたり減らしたりしていないと本人から聞きました。ただし、1つだけ、可愛いおまけともいうべきものがまぎれこんでいます。

ヒントはこの場面の前のページ。スパナを手にした子が、嬉しそうに乗っている車のフロントガラスにぶら下がっている小さなクマちゃん。この子のお気に入りでしょうか。

もう一度、もとの場面を見ると、油まみれになって、それにしても頑張りました。全部並べてこの通り。ナンバープレートの「さ」は、かこお得意のサインの代わりで、その下の方を見ていくと。。。
見つけました!
あのくまちゃんです。透明なプラスチックの吸盤でガラスにくっつけて下げるかわいいマスコット。かこは、きっとニヤニヤしながら描いたに違いありません。これぞまさに「マイッタなあ」です。

『こどものカレンダー4月のまき』(1975年偕成社)の4日のページは「4というすうじは よく みると ほら、しかくいかたちに なるでしょう。」と始まり四角の説明が続き、四角を元にして描いた、いつもとはちょっと違った感じがする、こどもや犬、猫、春の植物やカエルやオタマジャクシが載っています。

そして、今年の4月4日、日曜日はイースターでもあり、二十四節気の清明でもあります。

イースターは春分の日の後の最初の満月の後の日曜日、ということですから年によって3月のこともあれば4月のこともあり、『子どもの行事 しぜんと生活』(2013年小峰書店・上)で詳しくご紹介しています。

そして、二十四節気では、清明は春分の日から15日目ですので4月5日頃、今年は4日となります。この絵は、『万里の長城』(2011年福音館書店)にある清明上河図の模写です。多くの画家に影響を与えた、この名画には宋の首都、開封(かいほう)の活気あふれる様子が描かれていていて、それを加古が模写しました。

コロナ禍の中ではありますが、明るい光と緑にあふれ、自然の生命力のエネルギーを感じるこの時期を十分に味わいたいものです。

2021/03/20

ハチが飛ぶ

かこはハチを好んで作品に登場させています。それは日本の昔話で多く語れているからなのかもしれません。鬼や怖いものに逆襲する手段として、小さななりの一見弱そうなものが力を合わせるとき、ハチもその重要な役割を果たすのは「さるかに合戦」でご存知のとおりです。

『わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん』(1973年偕成社・上)のぶんぶんぶんはハチの羽音で古くは万葉集でも「ぶ」という音で表現されていたそうですが、表紙にもハチがいますし、次の部分にかこの気持ちが込められています。 

(引用はじめ)
ぼらの わたしの
おくにでは
うたをうたって
はたらいて
はちまで ゆかいに
ぶんぶんぶん
わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん
(引用おわり)

『あおいめくろいめちゃいろのめ』(1972年偕成社)でもハチが重要な役割をしていますので、裏表紙と見返しにズラリと並べています。

調べてみるとハチは驚くほどたくさん種類があることがわかります。その代表的なものが『あそびの大惑星 4いちぬけた にいにげたのあそび』(1991年偕成社)の中にでてきます。この本は数に関する数え歌やあそび、四季、各月の歳時記や自然、お祭りなど風土、生活と総合した遊びを紹介するもので、駄洒落好きのかこらしく8になぞらえています。

(引用はじめ)
【1】 いたいのは スズメバチ
【2】 にげるのは アシナガバチ
【3】 みつをせっせとミツバチ
【4】シシアブだってひとをさす
【5】 いんでゆくベッコウバチ
【6】むかってくるジガバチ
【7】なんども くるのは ハナバチ
【8】はっぱのうえに ハキリバチ
【9】くろい だんごの クマンバチ
【10】 とんだところに トックリバチ
(引用おわり)

シシアブは姿形がハチに似ていて刺すのですが、ハチの種類ではありません。

ジガバチは『ありちゃんあいうえお かこさとしの71音』(2019年講談社・下)にも登場しています。この本の前半は50音に濁音、半濁音の71文字の言葉遊びで、挿絵と言葉が面白く思わず笑ってしまいます。後半はかこさとし初めての詩集になっていて、孫にまごまごしつつ可愛くて仕方がない、じじばかぶりが露呈しています。

話をハチにもどしましょう。もちろん『地球』(1975年福音館書店)には、ミツバチ、ジガバチ、クロアナバチが飛んでいますし、クロアナバチの巣やクロスズメバチの巣なども描かれています。

そして2021年1月に刊行された童話集『くもとり山のイノシシびょういん』(2021年福音館書店)ではイノシシ先生が沢山のハチの針を抜いて治療する場面があります。

最近は都会のビルの上でハチを飼い蜂蜜を収穫する方があるそうですが、皆さんの周りにミツバチは飛んできますか。色々な花が咲き始め、植物の受粉のお手伝いをしてくれるミツバチたちが活発になるのはもうすぐでしょうか。