作品によせて

2023/01/28

手袋人形

小学校時代の冬、手袋は雪遊びの必需品でしたが、室内では「手袋の反対なーんだ?」「ろくぶて!?」と言い合いながら、手袋で人形を作って遊んだものです。

絵本の中にも手袋人形が登場します。うさぎ年の今年、読み聞かせに引っ張りだこの『だるまちゃんとうさぎちゃん』(1972年福音館書店)では、だるまちゃんと妹のだるまこちゃんが、手袋うさぎを作ってうさぎちゃんたちを喜ばせています。

手袋人形に加え、雪兎、新聞紙の兜の作り方や子どもたちが大好きなリンゴで作るうさぎやだるまも出てきます。

手袋人形は遊びの本でも、必ず紹介されていて『とってもかわいいあそび』(2013年復刊ドットコム)の表紙には、両手に手袋人形をつけた子。本文には丁寧な作り方が書いてあります。

『てづくり おもしろ おもちゃ』と英語版『Chock Full o’Fun』(2021年小学館)にも表紙の子どもが持っているニワトリ人形の作り方などが掲載されています。

『こどものあそびずかん ふゆのまき』(2014年小峰書店)も同様で、モヘア手袋のやわらかい感触と色をいかした手袋赤ちゃんもあります。

いずれの手袋人形も加古が作ったものです。

福井県越前市ふるさと絵本館では、3月27日(月)まで「遊び」をテーマにした展示が行われていて、上の写真にある3点を陳列中です。どうぞご覧ください。

2023年1月、精神科医で作家の加賀乙彦氏が93歳で逝去されました。

加古と氏との出会いは、1950年代、川崎セツルメント診療所の医師として加賀氏が奉仕尽力してくださった時以来で加古の自宅にもいらして下さるなど終生交流が続きました。

2008年の『伝承遊び考』上梓の記念会では、多くのセツラーのみなさんもご参加下さったのですが、氏のお姿もありました。加古との出会いについてユーモアたっぷりにお話しされ、会場をなごませてくださったお姿が懐かしく思い出されます。

その時の記念写真が『伝記を読もう かこさとし 遊びと絵本で子どもの未来を』(2021年、あかね書房)にあります。掲載のお許しをいただこうとお尋ねしたところ、快諾のお手紙をいただいたのですが、加古を「兄さん」と記していただき、感激したものでした。

『別冊太陽 かこさとし』(2017年平凡社 )にも「加古里子さんとセツルメント」をご寄稿下さり、出会いの様子をみずみずしい筆致で再現していただきました。その時には「使い古したチューブから絵の具をひねり出すように書いてみます」とユーモアたっぷりに編集の方におっしゃっておられたそうです。

東日本大震災の折には、電話でお互いの安否を確認し、氏の蔵書が本棚から落ちて大変だったそうだと加古から聞きました。新刊が出ると送ってくださった氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

氏に関しての記事は以下でどうぞ。

加賀乙彦氏 東京新聞

2023/01/13

ピアノ

小学校の音楽の時間にハーモニカを習ったのは筆者の世代で、今ではハーモニカではなく鍵盤ハーモニカをするのだとか。息を吹き込みながら、鍵盤を弾くとハーモニカと同じ原理で音が出るのだそうです。

鍵盤といえば昭和30年代、40年代は子どもにピアノを習わせることが流行というか、憧れの生活スタイルと考えられていたようなところがありました。書道やそろばんを習い事にする子どもも多く、スイミングスクールが広まる前の時代のことです。

『でんとうがつくまで』(福音館書店) の裏表紙のこの絵はまさにその昭和時代の憧れの暮らしの一コマのようです。ピアノではなくその脇で輝いているスタンドの電灯やシャンデリアがこの科学絵本のテーマ、電気と関係するのですが、猫がいて魚の骨マークにかこのサインでもある[さ]のマークがついたピアノに目が行ってしまいます。(オルガンにも見えますが、本文の絵ではアップライトピアノとして描かれています)

科学絵本『だんめんず』(1973年福音館書店)は、ほぼ同時代の作品で、ご覧のように表紙には、グランドピアノの断面図がドーンと描かれています。

木を切り出してから、ピアノが出来上がるまでが物語になっているのは『まさかりどんがさあたいへん』(1984年・1996年小峰書店)です。多種類の工具で木が切り倒され製材されて、椅子やグランドピアノが出来上がり、ロボットちゃんの演奏で終わります。

グランドピアノが表紙を飾る絵本『しらかば スズランおんがくかい』(1986年偕成社)は、あとがきにあるのですが「カナダやシベリアの動物や植物」が登場し、雪解けで現れた不思議な箱から出てきたものがいったい何なのか考えをめぐらせます。

イスなのか、机なのか?
怖さ、恐ろしさ、びっくりが色々あって、これが「おとをだすおもちゃ」だと判明。

厳しくも美しい自然の移り変わりを背景に動物たちがピアノを囲み、素敵なメロディーが聞こえてくるような心温まるファンタジーです♬

うさぎはお子さんたちも大好きなので、脇役として登場する絵本は沢山あります。

デビュー作品『だむのおじさんたち』(1959年福音館/復刊ドットコム)では、山奥で測量をする人を遠巻きに見るウサギがいることで画面が生き生きしています。

『ゆきのひ』(福音館書店)のこの場面はまさに「〽︎ウサギ追いし かの山」の様子で、「うさぎとりのわなをしかけ」るのを見ているうさぎ、逃げるものもいて、雪の降りやんだ青空が眩しく感じられます。

一方、下は『地球』(福音館書店)の一場面。きつねの様子を伺うウサギが木の根元にいます。
むしろここでは「うさぎのよこっとび」をご紹介したいと思われます。

『ことばのべんきょう』(福音館書店)は動物たちが人間と同じように暮らす様子を描き、小さいお子さんが言葉を覚えるための4冊シリーズの本ですが、ここでもうさぎちゃんたちが活躍します。

実際のウサギではないのですが題名にうさぎが出てくるのが『うさぎぐみとこぐまぐみ』(1980年ポプラ社)です。
「しんまちほいくえん」の「うさぎぐみ」は「こぐまぐみ」より小さい子たちの組で、そこにダウン症のショウタちゃんが入園してきました。ある日のこと、ショウタちゃんは「こぐまぐみ」の子たちが作っている砂場の山にジョウロで水をかけてしまいケンカが始まります。

止めにはいった「こぐまぐみ」のせいちゃんは一番力の強い子ですが、実はせいちゃんのお兄さんもダウン症で水をかけたショウタちゃんのことをかばったのです。このことをきっかけに、せいちゃんがお兄さん思いの優しい子だとみんなにわかりました。

保育園では色々なことがあって少しづつ大きくなってゆく子らの姿が描かれる「かこさとし こころのほんシリーズ」の第一巻です。SDGsという言葉が使われるはるか前に執筆されたものですが、まさにそれがテーマとなっています。

あけましておめでとうございます。

新年恒例の干支探し。
卯年は『だるまちゃんとうさぎちゃん』(1972年福音館書店)の笑顔から始めましょう。

南天の赤い実を雪ウサギの目にしたり、松や竹を使ったウサギ雪だるまは縁起が良さそうでお正月にピッタリですね。

登場するのがうさぎと美味しそうなパンのみという絵本は『うさぎのパンやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)です。
お店の制服や白衣姿のうさぎさんの可愛らしさと、パンの種類の多さが人気です。

白衣姿といえば、『くもとりやまののイノシシびょういん』の看護師のうさぎさんを忘れてはなりません。

不調やけがの患者さんに問診するイノシシ先生の温かみあふれる様子が魅力的で、看護師のうさぎさんも思いやりあふれています。心に効くお薬のような7つの小さなお話です。

2021年に刊行された本書はその年度のベスト新刊部門の第3位でした。(以下でどうぞ)

くもとりやまのイノシシびょういん

『パピプペポーおんがくかい』では、かわるがわるさまざまな動物が舞台で歌や踊りを披露しますが、うさぎちゃんたちは、その名も「パピプペポンマーチ」を」元気よく熱演。

このうさぎちゃんたちのように、笑顔で元気よく過ごせる一年となりますようご祈念申し上げます。

(1)に引き続き『かこさとし あそびの大星雲6 やすくておとくなあそび』(1992年農文協)からの話題です。

この本は上にあるようなダジャレたっぷりの場面もあれば、ねずみ講のしくみ、あやしい しょうばい、株の うりかい 証券ごっこ、けいえい ゲームなど、見出しを見るだけで大人も興味がわく内容です。

その中から「みっつの くにの けいざい せんそう」を全文ご紹介します。

(引用はじめ)
1
せきゆが でる ひろい さばくの くにと、
むぎが たくさん とれるのはらの くにと、
よい じどうしゃを つくる やまの くには
たがいに それぞれの できたものを うり、
ないものを かって なかよくしていました。

2
ところが やまの くにだけが だんだん
ゆたかになるので のこりの ふたつの くには
そうだんして、 やまの くにに うる ねだんを
たかくすることにしました。

3
やまの くにでは たちまち ものの ねだんが
あがったので、 みんなは せつやくして 
つかわないようにしました。
けれども たべものだけは どうしても いるので、
しかたなく たかい むぎを かったため、
つくっている じどうしゃの ねだんも たかくなりました。


4
さばくのくには じどうしゃが たかくなると
つかわないので、せきゆが うれず こまりました。
のはらの くにでも、むぎを はこぶ 
じどうしゃだいが たかくなり、せっかく
ねあげしたぶんの りえきが なくなってしまいました。

5
それで みっつの くにとも まえより くらしが
わるくなり、ひとびとが くるしみ
だんだん ふまんが おおきくなって とうとう
みっつの くにとも ほろびてしまいました。
(引用おわり)

値上げが続くこの頃、よく耳にするインフレ(ーション)。

子どもに説明するとき役立つのが『かこさとし あそびの大星雲6 やすくておとくなあそびーお金と経済のからくりー』(1992年農文協)です。
「パンツのインフレーション」という見出しで、分かりやすい例を用いて説明がされ、その最後はこのように結んでいます。

(引用はじめ)
このように いるものが すくなくて ねだんがあがり、かえなくなってしまう こまった ようすを インフレーションといいます。
(引用おわり)

インフレーションの次には、2020年11月6日の当サイト「編集室より」で取り上げた「えんぴつのデフレーション」の解説が続きます。

 『かこさとし 人と地球の不思議とともに』(2017年文藝別冊 KAWADE夢ムック)に「かこさとしの経済学ーその人と作品から」を寄稿している鈴木愛一郎はこの本(『やすくておとくなあそび』)の読者に向けて次のように語っています。

「なぜ自分の国だけで作らないで貿易をするのか?なぜのびる会社とおとろえる会社があるのか?なぜ望まなくてもインフレやデフレが起きるのか?・・そこにはこれまで人間の社会や歴史を動かしてきたお金の世界の大きなテーマがかくされています。この本(『やすくておとくなあそび』)にはそうしたテーマを考えるきっかけ、ヒントがたくさんつまっています。ぜひ、子どもも大人もいっしょになっていろいろ考えてみてください。」

2020年11月6日の当サイト「編集室より」は以下でどうぞ。

やすくて おとくなあそび

【さ】『サン・サン・サンタ ひみつきち』(1986年・2019年復刊ドットコム)

クリスマスにはこの一冊。しかしながら、クリスマスを迎えるために、北の果てにある秘密基地で人知れず行われている作業のお話でもあるので、一年中そばに置いておいて見ていたい絵本でもあります。

それはそれは沢山のおもちゃとオーロラが描かれた、かこさとし、とびきりのファンタジーをお楽しみください。

【と】『トントンとうさんとガミガミかあさん』(1982年・2005年ポプラ社)

トントンと扉をたたくお父さん、いつもはガミガミのお母さん。そのお母さんが病気になってしまって、お父さんは、トントンと野菜を切り食事つくりに精を出します。

そんなお父さんを見て小学生のともゆきくんと妹のさあちゃんは、入院したお母さんの代わりに家事をしようと思いお父さんから調理の仕方を教わります。

かこは、この本のあとがきで、家庭での食事つくりに関して次のように書いています。
(引用はじめ)
その結果として家族交流とだんらん、そして健康が確保されるのですから、それこそ時間や労力や金銭をさいても入手したい「すばらしいこと」と思います。
しかもそれは毎日、各家庭の台所で展開されるとき、かならず生活をともにしている子どもたちはその様子
に接します。その見聞、におい、ふんい気、手順、手さばき、そうした人間行動の背後にある心づかいや配慮、おもいやりや心くばりを食欲の満足とともにつよくふかくきざみつけます。これは料理の本や講習会でつたえられぬ家庭の教育の賜物です。
(引用おわり)

【し】『しっこのしんちゃん じまんのじいちゃん』(1985年ポプラ社)

かこさとしが、時代に先駆けて心の問題をテーマにしたシリーズの1冊で、オネショの悩みについて取り上げた異色の絵本です。
幼稚園に通うしんちゃんは、よくオネショをします。小学校に上がる前の夏休み、海のそばのおじいちゃん、おばあちゃんと暮らし、身体も心も強くたくましくなってオネショも卒業します。

「オネショは、子どもの心ばかりでなく、親の子どもに対する考えや生活態度を反省し検証する、とても大事な道しるべ」と、あとがきの言葉にあります。

最後の2冊に登場する祖父母による支えにも考えさせられます。

『かわいいみんなのあそび』『こどものげんきなあそび』『さわやかなたのしいあそび』『とってもすてきなあそび』『しらないふしぎなあそび』(2013年復刊ドットコム)の頭文字を読むと「か・こ・さ・と・し」になるのは、かこさとし遊びの本5冊シリーズです。

それにならい、寒い冬に心が温かくなるような「か・こ・さ・と・し」の絵本を2回に分けてご紹介します。

【か】『かわいいきろのクジラちゃん』』(2021年復刊ドットコム)

『かわいいきろのクジラちゃんは1985年同名でポプラ社から刊行されましたが、その年に全国障害者福祉財団「ふれあい紙芝居」として作ったものが元にもなっている、とあとがきにあります。

かこは自身が緑内障で視野が欠けた不自由を抱えながら半生を送り、最後はほとんど見えないほどだったこともあり「心身にハンデをもつ子に対しておもいやりのないいじめや、つめたい無関心が今なお横行しているのに、じっとしておられず」この作品に「おもいを托したのです」。

みんなと色の違う子クジラが、それを理由にいじめられ、かばってくれた母クジラ亡くし失望のどん底で星に願うことしかできませんでした。しかし夜が明けるとその願いが通じます。

あとがきの最後の言葉は次のようです。
「どうか、みんなの心に朝の光がさしてくるよう祈ります。かこさとし」

【こ】『こまったこぐま こまったこりす』(1986・2017年白泉社)

『こまったこぐま こまったこりす』は、自分ができることをしてあげることでみんなの「こまった」ことが解決できるお話です。

道に迷ってこまったこぐまが、喉が渇いているのに疲れて水を探せずこまったこりすを肩に乗せてあげます。すると目にゴミが入って痛くて飛べない小鳥に出会い、というように次々とこまった動物が行動を共にしてゆきます。

1986年偕成社から出版された時のあとがきの最後には次のようにあります。
(引用はじめ)
「明るく、はっきり、ゆったり」と立ち向かう大人の姿から子どもは生きる力をひとつひとつ学びとってゆくように、このお話のこぐまたちから困難をのりこえる力を読み取ってほしいと願います。
(引用おわり)

そして2017年の復刊に際しての言葉は次のように結ばれています。

(引用はじめ)
せめて子ども達に持っている力や才智に応じた共生助け合いの心と、未来に生きる情熱を持ってもらいたいと念じて、作ったのがこの作品です。その私の願いが今も変わらないのが、少しさみしい気がしている所です。愛読を感謝します。 かこさとし
(引用おわり)

11月27日は四谷怪談を書いた鶴屋南北、そしてアメリカの劇作家でノーベル文学賞を受けたユージン・オニールが亡くなった日です。大学時代に演劇研究会には入っていたかこは洋の東西や時代を問わず、芝居には大変興味を持っておりました。

『こどものカレンダー11月のまき』(1975年偕成社)ではその日に合わせて「おしばいができるまで」というタイトルで、脚本家、演出家、舞台監督、衣装、化粧、効果、照明、音楽、装置、宣伝、総務など俳優以外の人々が働いたり考えたりしていると紹介、プロンプターや演出助手にも触れているほどです。

『うつくしい絵』(1974年)『すばらしい彫刻』(1989年いずれも偕成社)に続き演劇の絵本も作りたいとよく口にしていました。もし演劇の本を作るとしたら、まず入れたいのは人形浄瑠璃・文楽と申していたのが大変印象的で忘れられません。

その文楽については『こどものカレンダー3月のまき』(1976年偕成社)であやつり人形と共に紹介しています。[おうちのかたへ]というメッセージには、次のようにあります。
(引用はじめ)
文楽の名前は知っていても、実際に見たことのある方は案外少ないものです。できたらテレビより劇場でいちどご覧になることをおすすめします。
(引用終わり)

演劇の本といえば、シェイクスピアやチャプリン、あるいはオーソンウェルズを取り上げるのかと想像していたので意外でした。出版は叶いませんでしたが、『こどもの行事 しぜんと生活4月のまき』では壬生狂言について触れていますし、『だるまちゃん・りんごんちゃん』(2003/2013年瑞雲舎)に飯田の人形劇を登場させるあたり、演劇にこめたかこの思いをかいま見ることができます。

ところで、かこが大学時代、演劇研究会で担当していたのは舞台美術で、その精緻なデザイン案は現在、群馬県立館林美術館で開催中の「かこさとしの世界」展で展示しています。

下はその一枚、昭和22(1947)年5月18日東京大学五月祭で上演のアンドレ・ジイド作「13本目の木」の舞台案です。
是非、まじかでご覧ください。