こぼれ話
将棋倒しは危険ですが、もともとは、こまを倒す遊びからできた言葉です。
本来の将棋ではなく、遊びとしての将棋を紹介しているのが『しらないふしぎなあそび』(2013年復刊ドットコム)、かこさとしあそびの本5巻シリーズの最終巻です。
あとがきによると、この本では156、シリーズ全体では573の遊びが紹介されていますが、しょうぎあそびとして、ぬすみしょうぎ、はさみしょうぎ、王ぜめなどがあります。
面白いのは「ふりしょうぎ」で金のコマ4枚をサイコロのように「ばん」のうえでふり、こまの立ち方で点数を決めるあそびです。斜めの小さい面が「ばん」に接して立つと最高得点、こまが重なるとマイナス点。この点数を使って「ばん」中央の王将にたどり着く遊び「おみやまいり」や、4人が角に自分の「こま」を置き進んでゆく「まわりしょうぎ」が紹介されています。
世界各地の不思議な遊びや将棋遊びのほかに碁石遊び、トランプやチェスの遊びもいろいろ掲載されています。お家時間が長くなる季節、こういった古くからある遊びも楽しいものです。
秋の夜長、文学作品にまつわる話題です。
一つは夏目漱石。
漱石の小説は各社から文庫でも発行されていますが、金園社という出版社から1969年に刊行された『坊ちゃん・虞美人草』の挿絵をかこが描いています。絵本をかくようになる以前に、文学や美術雑誌などの挿絵を時折、描いていたことがありました。どのような経緯で、漱石の小説の挿絵をかくことになったか、分かりませんが、ご依頼をいただき、漱石を「もう一度読まなくちゃ」といっていた加古の言葉が私の記憶に残っています。
文庫ですから、線画で着色はありません。かこの「坊ちゃん」はこんなイメージです。右下にサインがあります。
もう一つは、ヒュー・ロフティング作、ドリトル先生シリーズ。その中の7番目『ドリトル先生と月からの使い』(井伏鱒二訳・岩波少年文庫)の2000年の新版以降に、かこさとしの解説が巻末にあります。
そこで述懐しているように加古自身もこの物語シリーズのとりこになった一人で、解説のタイトル「引力・魔力・四つの魅力」とあるように、ドリトル先生の物語が興味深く感じられる理由を分かりやすく分析しています。どうぞ、合わせてお読みください。
暖かいお茶がおいしい季節です。世界各地に様々なお茶がありますが、緑茶も紅茶もウーロン茶も同じお茶の木から作られるのはご存知の通り。茶畑は暖かい地域というイメージがありますが、雪の降る福井県越前市にも古くからあったそうです。
摘んだ茶葉を手で揉む作業の際に歌われた茶揉み歌がのこっている越前市味真野(あじまの)地区の茶畑には、その歌詞を刻んだ石碑がありますが、その歴史や茶畑について説明する看板が新たに出来上がりました。
その看板には『こどもの行事 しぜんと生活5月のまき』(2012年小峰書店)の冒頭にある茶畑と茶摘みの場面が出ています。この本は12巻シリーズで各月にまつわる行事や自然、そして遊びについて歴史を紐解きながら紹介し、楽しみながら知識が得られる本で、各月生まれのキャラクターが案内役となっています。この看板にいるのは9月生まれのキクばあさん、10月生まれのカンナさんと2月生まれのねこアルです。
お近くにいらっしゃる機会がありましたら、ぜひご覧ください。
画像や映像が手がるにいつで見られるようになって、クレイム対策もあるのでしょうが、【閲覧注意】を目にする機会も増えたように感じています。
筆者が小さかった頃、絵本の中に出てくる怖い鬼の場面は、目に入れないように細心の注意をはらってページをめくっていました。もう少し大きくなってからは、よせばいいのに、怖いもの見たさで昆虫図鑑を開いて鳥肌になったことがありました。昆虫大好きさんなら、目をらんらんと輝かせるところでしょう。好き嫌いは、人それぞれですので何が閲覧注意なのかは、判断が難しいかもしれません。
かこの作品でも、それに近い注意をいれてあるものがあります。『あかいありとくろいあり』(1973年偕成社)の続編、『あかいありのぼうけんえんそく』(2014年偕成社)です。
『あかいありとくろいあり』では春の草花の中、ありたちの大事件がおこるのですが、『あかいありのぼうけんえんそく』は、秋の遠足、しかも「ぼうけんえんそく」ですので秋の草花だけでなく想定外のものに遭遇します。引率する先生や父兄はそれに対しての備えも万端(下・裏表紙)なのですが、あかあり小学校の全校生徒たちにしてみれば冒険級の出来事というわけです。
山登りを始めた一行ですが、
(引用はじめ)
「そのうち だんだん みちが けわしくなって あせが
でて あしが いたくなったときーーー」
* どくしゃへ ごちゅうい!! きをつけて ページを ひらいてください!
(引用おわり)
9ページの最後に、*の一行が赤字でいれられています。
そして、次のページをあけると「あかい おおきな かいぶつ」がおそいかかってきます。
多数のかこ作品の中でも、このような注意書があるのはこの作品のみです。
一体どんな怪物?と思われた方は、どうか十分「きをつけて ページをひらいてください!」
来年のカレンダーができました。卓上に置くタイプが初登場です。
「だるまちゃんかれんだー」は絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(1967年福音館書店)の絵と『こどもの行事 しぜんと生活』(2012年小峰書店)の行事にまつわる絵や解説もあり、大人も大満足のカレンダーです。それにお子さんが遊べるかわいい仕掛けもあります。
詳しくは以下でどうぞ。
だるまちゃん 卓上カレンダー
ベルツすい、といっても、一体何?ですよね。ずーと忘れていたのに突然思い出した言葉です。半世紀以上前の昔、私が幼稚園に通っていた頃、冬になるとしもやけの手をしていました。原因は手を洗ってきちんと拭かずいたからかもしれません。
当時はハンドクリームの種類も限られ、まして、子どもなのでクリームのようなものはベタベタして嫌い。そこで化学会社につとめていた、かこがツルの首のようなものが付いているプラスチックの容器に入った液体を持ち帰りました。それがベルツ水。水というくらいですから水のようなさらったした無色透明、匂いもない液体です。
弾力性のある容器を押すとそのツルの首のように細くなった先からでてきます。しもやけに塗ることになりました。いつしか、しもやけもなくなりベルツ水のこともすっかり忘れていましたが、コロナ禍でしっかり手を洗う回数が増え手荒れが話題になって記憶の底からよみがえってきました。ベルツというのはドイツの化学者だそうです。
その容器のことは、つる首スポイト(洗浄びん)というらしいのですが、かこは絵を描く時この容器に水をいれて水彩絵の具をといていました。今でも書斎の机の片隅に置かれています。いつも見ていたその容器ですが、ベルツ水、急に湧いて出てきた言葉につられ思い出した幼い頃の記憶に若き日のかこの姿がありました。
7月23日は海の日ですが、大海原の中、噴火が続く西之島の光景をニュースで見ました。海洋気象観測船「凌風丸」からの映像とのことでした。りょうふうまる、どこかで聞いたような、見覚えがあるような。。。そうです、『海』(1969年福音館書店)のこの場面。
『海』は19場面で構成される大型科学絵本で、これはその第16場面にあたります。巻末にある著者の解説によると「凌風丸は気象庁所属の1、200トンの観測船です」とあり、この本が出版された時期から考えるとこの絵にあるのは現在の凌風丸(3代目)ではなく、1996年に竣工された2代目のようです。
『海』のこの場面をもう少し詳しく見てみると「りょうふうまる」の上空には気象衛星、台風のたまごも描かれ竜巻もおきています。海底には海底地震、海中には地震津波が伝わる様子もあります。凌風丸は台風を含め洋上の空気、海水や海流、海底火山など海底の地形などを長期監視しているとのこと。
西之島では6月中旬からほぼ毎日高さ約2000メートル以上の噴煙が確認され、7月4日には最高の約8300メートルに達し気象庁火山課によると「マグマが大量に上昇している状態」だそうです。
この夏は海の家がない湘南の海岸ですが、はるか海上ではこうしてデータを集めながら航海している船があることを想い、目の前のことばかりが気になる日常から想像の翼を広げる時間を本とともに過ごすことを楽しみたいと改めて感じています。
コロナ禍で滞ってしまいましたが、藤沢市役所本庁舎1階のホールの絵を掛け替えていただきました。1枚ではありますが、『あさですよ よるですよ』(1986年 福音館書店)の第2場面をご覧いただけます。
まめちゃんたちが、あさ起きてからのいろいろな動作が並び、小さなお子さんに日常の習慣や時計の読み方を覚えていただくのにお役に立つかもしれません。
本の印刷より鮮やかで緑色が爽やかなこの絵の展示は8月末頃までの予定です。お近くに行かれましたらご覧ください。
かこさとしの生まれ故郷、福井県越前市武生中央公園にはこの絵本をモデルにした、小さなお子さん専用の「まめちゃんえん」があり、立体のまめちゃんたちに会え遊具で遊べます。機会がありましたらお出かけください。
一度見たら忘れられない表紙です。きりなし絵というそうです。
「こどもが絵本をみている絵があります。よく見るとその本の絵は子どもが絵本を見ているところで、そのまた絵本の絵が本をみている子どもで・・・と、どこまでもつづく絵のことです。」と『ぼくのいまいるところ』(1968年童心社)のあとがきに「大きな世界と小さい自分の存在の尊さ」と題して、かこさとしが書いています。
かこは小さい時こういう絵が大好きだったそうで、こう述懐しています。
「ふと気がつくと、その絵本を見ている自分がその絵の当人じゃないかと思いつき、おもしろさと、ふしぎな気分にいつまでもひたったものです。」
『ことばのべんきょう くまちゃんのいちにち』(1970年 福音館書店)は裏表紙(上)もきりなし絵です。
この本は15センチ四方と小型ながら中には可愛らしい動物たちの楽しい世界が広がり、面白さがぎっしり詰まっています。これは4巻シリーズの第1巻で、くまちゃんの1日を見ながら言葉を覚えられるようになっていて、あさのようじ、食事やおやつ、掃除や洗濯などの場面、外の遊び、そして部屋の中の遊びも2場面(写真上・下)ずつ描かれています。
お家遊びのヒントにしていただけたらと思いますが、「いたずら」はほどほどにお願いします。私がかつて遊んだ中では「おばけごっこ」が静かでいいわ、と評判が良かったのですが、驚かされる人が大声で悲鳴をあげてしまう恐れもあります。。。
「そとあそび」と「へやのなかのあそび」の場面は、新型コロナウイルス感染防止のため予定変更で5月12日から8月31日まで開催の愛媛県歴史文化博物館の展示会で『くまちゃんのいちねん』の絵と合わせて多数ご覧いただけます。
2015年2月、みぞれまじりの寒い朝、かこは川崎市中原図書館で開幕する「かこさとし川崎の思い出〜1950年代のセツルメント活動と子どもたち〜」展の初日の記念講演の会場に入りました。
開場までにはまだ充分の時間があり、入場はハガキによる予約制でお断りをするのに苦労するほど多くのご応募があったため講演会の準備にも大勢にお手伝いいただき余念なく進むなか、一人の男性がマイクチェックをしている舞台のかこのもとに近づいて来られました。
その表情はなんと表現して良いのか、目元がくしゃくしゃしていて、何事かあったのかと思わざるを得ない様子でした。言葉も明瞭ではなく、聞けば、手にした一枚の写真を見せ、これは自分だといわれました。その方が持っていたのが冒頭の写真。かこのセツルメント活動を語るときに必ずと言って良いほど紹介されるものです。
女の子を先頭に子どもとセツルメントのメンバーたちが背の順にならび最後に立っているのが、メガネに帽子の若き日のかこさとし。その男性は「かこ先生」といったきり、もう言葉が出てきません。お顔を拝見すると、そう、写真の男の子の面影があります。慌ててかこの傍らにお連れし、あとは涙、涙の再会となりました。
その日の講演では、前半はかこがセツルメントについて語り、後半はセツルメント活動に携わった方々やかつての子どもたちが壇上に上がりに思い出を語るという構成でした。この日の為に、長い時間にわたる献身的なご協力をいただき、ようやく連絡がとれた当時の関係者の方々のお話からは、セツルメント活動が果たした役割の大きさが伝わってきて満員の聴衆も大変心を動かされました。写真の男性にも急遽壇上に上がっていただきました。
60年以上の時空を超えてかこと再会できたこの男性のおかげで当時の子どもたちのことが次第にわかりました。かこはこの再会を何にもまして喜んでいたのは言うまでもありません。その写真が、2020年3月20日に出版された『写真が語る 川崎市の100年』(いき出版)に収録されています。かこにとって忘れえぬこの一葉は、戦後日本の復興を支えた工場で働く人達の多くが暮らした川崎の歴史を伝える一コマでもあったのです。
2020年3月川崎市広報特別号などでも
この写真やセツルメント活動については川崎市広報特別号やタウンニュースでも取り上げられました。かこの手書き資料(初公開)などが掲載されています。詳しくは以下のサイトでご覧ください。
川崎市広報特別号
タウンニュース