編集室より

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一年に一度雪が降るか降らないかの地域でも、冬はやはり雪のイメージが思い浮かびます。

藤沢市本庁舎に季節ごとに掛け替えているかこ作品、2021年12月からは『ゆきのひのおはなし』(1997年小峰書店)の2枚を展示しています。お近くに行かれましたらご覧ください。

なお、この絵本については以下でおすすめの雪の絵本として紹介されています。

雪の絵本

かこさとしが自然に関してどんな思いを抱いていたかは、2021年秋冬号の雑誌「花椿」の特集:Living on This Beautiful Planet 「透明な力を糧に」で林綾野さんが引用しているように、かこの著書『私の子ども文化論』(1981年あすなろ書房)でふれている宮沢賢治の「狼森と笊森、盗森」の自然観に重なります。

賢治のこの作品について、かこは「人間が、その自然の構成の一員として、その制約と相互依存の状況下にあることをえがいたこの先覚者の含蓄を味わって」とし、(中略)次のように述べて「子どもたちの遊びと自然保護」と題する節を結んでいます。

(引用はじめ)
子どもたちは、自然と親しみながら、あそびながら、自然の尊さとそして人間も自然の中の生物の一つであるという自覚を肌で感じとって育っていくものではないだろうか。そして、おとなになって日本の自然をなつかしみ、大事にするひととなるのではないだろうか。それがひいては、将来の日本を背負ってたつ子どもたちに自然保護を呼びかける最善の方法のような気がする。
(引用おわり)

『こどもの文化論』の出版からさかのぼること10年前に刊行された『きんいろきつねのきんたちゃん』(1971年学研/2005年ブッキング)には次のような場面が描かれています。ゴルフ場や別荘地などの大規模開発が盛んに行われるようとしているのを察知して日本の自然が破壊されることを危惧していました。

残念ながらこの本は絶版ですが、かこの絵をいもとようこ氏の絵に替えて出版された『きつねのきんた』(金の星社)版にかこさとしのあとがきがあり、この問題について記していますのでここで全文ご紹介します。

(引用はじめ)
この絵本のもとになったのは、一九七一年にかいた、『きんいろきつねのきんたちゃん』(学習研究社・刊)というお話です。当時、それほど問題になっていませんでしたが、自然をこわしたり、ゆがめたりする人間のわがままな行いを、動物たちを通じて考えてもらおうとした作品です。

それから二十年もの間、たくさんの人たちによんでいただき、紙芝居になったり、時にはミュージカルやアニメ映画にしようというお話があったりしているのですが、もとになった自然と人間の関係は、まだまだよい方向に進んでいないようです。ですからきんたをはじめ、動物たちも、いまも苦労をしていることでしょう。

この本をきっかけに、なぜ二十年以上も、よくなって行かないのかという、本当のわけを、よく調べ、勉強し考えて、正しくするよう力をつくしてくださるのを、願っています。
作者 かこ・さとし

(引用おわり)

この文が書かれてから17年。取り戻すことができない自然破壊を続けてきた17年が過ぎてしまいました。今こそ、かこがこのあとがきに込めた願いを実現させなければならない時であると思いを新たにしています。

2021年11月4日伊勢新聞・6日琉球新報・8日佐賀新聞・9日河北新報・静岡新聞・10日埼玉新聞・中国新聞・山陰中央新報12 日熊本日日新聞 22日神奈川新聞 24日京都新聞 26日山陽新聞. 12月5日宮崎日日新聞 7日 奥羽日報

今年を振り返るのは少し気が早いかもしれませんが、2021年11月に上記各紙で報じられたように、2021年は出版に恵まれた1年でした。
1月には、『くもとりやまのイノシシびょういん ー7つのおはなしー』(福音館書店)がでました。これは読み聞かせ・語りを目的にかこが書きためていたお話で、コロナ禍のステイホームで苦しい中、気持ちの和らぐお話として楽しんでいただいたという嬉しいお声が届いています。

かこさとしの伝記が初めて出版されたのも今年でした。初出の写真も豊富でかこさとしを知るには、必読です。わかりやすい言葉でかこの内面を伝え、生きる意義を考えさせられる、お子さんにも大人にもおすすめしたい一冊です。上記の新聞記事では著者の言葉を引用し詳しく紹介しています。

日本エッセイスト賞を受賞した珠玉のエッセイが文春文庫として登場したのは5月。ここにも貴重な写真やかこの挿絵がさらに加えられ、深い洞察が数々の思い出話の中に散りばめられ、読みやすい作品です。

加古が興味を持って研究した子どもの遊びは、子どもの成長にとって不可欠で、それにより想像力と創造力を育てる原動力になります。そのお手伝いとして、身近にあるものを使って自分でおもちゃを作る楽しさを紹介する『てづくり おもしろ おもちゃ』(小学館)は、1968年アメリカで発売された『Chock Full o’Fun』の日本語版で、この7月に英語版の復刻と合わせて出版されました。

復刊といえば、『うさぎのパンやさんのいちにち』『たろうがらす じろうがらす』『かわいい きいろのクジラちゃん』(いずれも復刊ドットコム)が次々に復刻され、こんな絵本があったとは!」と驚きを持って手に取っていただいています。

そして大きな反響を呼んだのが、絵本『秋』(講談社)。一人称で語られる18歳のかこが目にした戦争の凄惨な出来事はこれまでかこが語ったことがないもので、秋の美しい風景と対象的で胸にせまります。後年かこが子どもたちのために人生をかけて、とりくんだのはこうしたことがあったからなのです。

かこ作品の中でおよそ4分の1を占める紙芝居については、まとめたものがありませんでした。そこで、一冊の本にして8月に出版されたのが『かこさとしと紙芝居 ー創作の原点ー』(童心社)です。かこ自身による紙芝居の歴史や考察などを収録、現存する自作の紙芝居全てのあらすじも掲載しています。研究資料としても読み物としても面白いこの本について、記事では詳しく紹介しています。

また、記事では加古総合研究所が資料画像等を提供した長野ヒデ子氏による『かこさとしの手作り紙芝居と私』(石風社)についても合わせて伝えています。

このように2021年には新刊、復刊合わせて10冊が刊行され、いずれもかこさとしを知るのに欠かせないものですし、新しい情報に富み、読んで面白い、見て楽しいものばかりです。是非ご覧ください。

石、粘土版、木簡、皮など人間は様々のものに文字を書いてきました。電子機器に頼る現代の私たちですが、紙を手放すことはできません。紙を最初に作ったのは、中国の蔡倫と言われていますが、『新版 科学者の目』(2019年童心社)に紹介されているように「樹皮、麻布、ぼろきれ、魚網などを使って紙(蔡侯紙)をつくり、105年に和帝に献上した」そうです。

しかし、「考古学上の調査によると蔡倫よりもっと古く、紙らしいものがあるのに、紙の発明者として蔡倫の名が伝えられている」理由が重要なのだと続きます。是非、本文をお読みください。

今までゴミと思われていた玉ねぎやじゃがいも、みかんの皮や茶殻など様々な野菜を使った紙なども誕生しています。

以前ご紹介したバナナの茎の繊維を利用したバナナペーパーの本、『ミラクルバナナ』(2001年学研)もあります。

『ミラクルバナナ』は日本、ハイチの大学や企業など多くの協力で出版され、日本語の文をかこがお手伝いしました。あとがきのような最後の部分をご紹介します。

(引用はじめ)
「世界中のおともだちに バナナの紙をみてもらおう」
みんなでそうだんし、バナナのせんいをあつめて、船で日本におくることになりました。

日本の港についたバナナのせんいは、トラックで、紙をつくる工場にはこばれました。

そして、できあがったのが、この絵本につかわれているバナナの紙です。

国をこえて、みんがきょうりょくしてつくった、たいせつな、すばらしい紙です。
(引用おわり)

紙を通してSDGsを考えるきっかけにもなりそうです。

この本を通じ、ハイチのことを知ろうという小学校の呼びかけは以下をご覧ください。

ミラクルバナナ

尚、『新版 科学者の目』については2021年11月14日佐賀新聞「県立図書館のドンどん読書」コーナーで紹介。記事は以下でどうぞ。

科学者の目

2016年に復刊されて大きな話題になったこの絵本。大人もこどもも、もう一度読んでみたいと思うのは、1983年出版当時のかこの「あとがき」にこんな言葉があるからでしょうか。

一部をご紹介します。
(引用はじめ)
この本は、少数でも優れた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な「民主主義の真髄」を取り戻したいと言う願いでかいたものです。
(引用おわり)

BSNキッズプロジェクト「大人の本棚・こどもの本棚」で紹介されました。以下でどうぞ。

こどものとうひょう おとなのせんきょ

2021年9月17日静岡新聞 紹介

投稿日時 2021/10/08

『ねんねしたおばあちゃん』(2005年ポプラ社)

小さな子どもは、だれが世話するのか。コロナ禍にあって、保育園が休園になってしまったり、家庭の中で感染がおきてしまったり、保育に関しても今までとは違う状況が出現しました。

この本が最初に出版されたのは1980(昭和55)年で、周囲の人々との間でおこる子どもの心の動きをとり上げた、当時としてもユニークな「こころのほん」シリーズの第2巻にあたります。

生まれたばかりのタミエちゃんの世話をするおばあちゃんの物語で、成長して活発になっタミエちゃんは、おばあちゃんのてをふりきって遊びに出かけようと家を飛び出した途端に交通事故に合います。おばあちゃんの応急処置の甲斐もあって、タミエちゃんの命に別状はなく、足の怪我の入院から戻ってきたある日、突然おばあちゃんが倒れてしまいます。

「保育のあり方が多様になった今なお、私たちに強く訴えかける」と静岡新聞書評欄で紹介されました。

『新版 科学者の目』(2019年童心社)

41人の業績、葛藤 簡潔に

静岡新聞のこどもかがく新聞は、科学に関する情報が満載です。[かがく図書館]コーナーで紹介されたこの本は、古今東西の科学者たち41人の科学者としての着眼点や研究方法、生き方などをわかりやすく深く解説する伝記です。物事をどう捉え、考えれば良いのか、あるいは生き方について考える時、この先人たちの歩んだ道は、こどもにも大人にとっても示唆に富んだものと言えるでしょう。

かこさとしは晩年、肩書を「絵本作家」でよろしいですかと聞かれると、作家というのは夏目漱石や芥川龍之介のような才能ある人たちのことで、自分はとてもそんな存在ではく「児童問題研究」をする者と言っておりました。

『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年文春文庫)は、久留島武彦文化賞と日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した『遊びの四季』(1975年じゃこめてい出版)を底本に、加古によるカラーの挿絵や写真、エッセイや解説を加えたものです。もともと挿絵がほぼ各ページにあり、優しい独特の独特のタッチが内容を一層わかりやすいものにしています。

書評を書いた松永裕衣子氏は、その受賞時のかこの肩書きは「子どものあそび研究家」であることを紹介しながら「ページを開けば、当時の子どもらの元気な姿が目に浮かび、読めば読むほど味わい深く、心にしみるエッセイ集である。」とし、かこが伝えたかったのは、ただの郷愁ではなく遊びの中で身につけ、心に刻んだものであると本書の意義を読み解いています。