編集室より
キャスターのついたトランクやカバンが一般的になったのは1970(昭和45)年ごろでしょうか。
宅配便もない頃でしたので、重たいトランクやカバンを自分で運ぶしかありません。東京駅や上野駅で赤帽(ポーター)さんが荷物を運ぶのを見かけたたのもその頃です。
そんな昔風のトランクやカバンが登場する場面を探してみます。
上は、『かこさとし童話集②』(2023年偕成社)にある「ふぶきのお客」の挿絵です。
このお話は、かこさとしと思しき登場人物が旅の帰り道、不思議な体験をするファンタジーです。
加古自身をモデルにしている『カッコーはくしのだいぼうけん』(1978年/2022年復刊ドットコム)の博士は、怪物退治の材料がつまったカバンを持って自慢の高速ロケットに乗り込み事件解決に向かいます。
本作も「ふぶきのお客」と同じ1978年作で、その頃の加古はこんなカバンをもって全国各地に出かけ講演をしていました。
カバンの中にはこんなものが入っていて
カバンから取り出した謎のものを怪物めがけて投げ
『たべもののたび』(1976年童心社)は、食べ物が人の身体の中を旅するという例えで小さいお子さんたちに消化についてお伝えする科学絵本です。
食物の栄養ということが重要になるので、それを目で見てわかるようなトランクやカバンという形で現して理解を助けているわけです。
今から49年前の出版当時、電車の切符は紙製の硬券でしたので、今となっては歴史を留めている絵でもあります。
そしてテーブルに並ぶりんごやブドウの手にも、口の中の食べ物にもトランクやカバンがあって、旅が始まります。
下の右側の絵は10月末ごろまで藤沢市役所1階ホールに飾っていますので、お近くの方はぜひどうぞ。
桃、栗3年、柿8年。
実るまでの目安がこのように言われていますが、もうすぐ柿や栗が実る頃です。
よく耳にする五穀豊穣に加え、五果と言われるなりものも昔の人々にとっては大切な食料でしたので、昔話にしばしば登場します。
下の絵は『あそびの大惑星7 ももくりチョコレートのあそび』(1991年農文協)からです。
同シリーズの5『こびととおとぎのくにのあそび』(1991年農文協)には、こんな絵があります。
桃太郎は栗太郎と双子で、弟は柿次郎、その弟は梨三郎。
一方『こわや おとろし おにやかた』(1986年偕成社・下)では、桃太郎、梨次郎、柿三郎と季節が進むにつれ実る順番になっています。
桃太郎にこんな兄弟がいるのをお父さんがご存知かどうかはわかりませんが、加古が1950年代に昔話を調べ「いろいろな果実やなりものから子どもが生まれてくる話があり」「なぜたくさんあるのだろうか」と考えたと、この絵本の後書きに書いています。
その「あとがき」は以下です。
「こわや おとろし おにやかた」あとがき
『かこさとし童話集⑤日本の昔話』(2023年偕成社)には、「なしなし なしばなし」として「白なしどんべえのはなし」「青なしぎんぞうのはなし」「赤なしげんたのはなし」の三話が収録されています。
また「かきの木 一本かき 一つ」という柿にまつわる作品や、短編の「くりむかし かきむかし」、長編の「くりひこ うりひめ」が収めてあり、昔の人々がこういった果物に特別な気持ちを寄せていたことがわかります。
梨や柿が実るこの季節、ぜひお話しも一緒に味わっていただけたらと思います。
下の絵は『こわや おとろし おにやかた』より。
「WEBふじさわびと」レポート
2025年7月8日から8月24日まで藤沢市アートスペースで開催された展示会は大変多くの皆様にご来場いただき、この展示会に込めたメッセージが非常によく伝わったとおっしゃっていただきました。
一方、藤沢までお越しになるのが難しかった方々から無念のお声も届いております。
関連のJ:COM番組はYouTubeでご覧いただけますが、展示会前日に行われました内覧会での解説を以下の「WEBふじさわびと」で詳しく紹介していただいておりますのでぜひどうぞ。
2025年夏かこさとし作品展 WEBふじさわびとレポート
「ほかほかー
こんがりー
おいしい パンが
たくさん
やけました。」
とある『からすのパンやさん』(1973年偕成社)のこの場面、加古は「食べ物は美味しそうに描かなければならない」というのが口ぐせでした。
戦争の頃食べ物に苦労し食べ物のありがたさが身に染みているからこその言葉です。
美味しそうなパンが並ぶこの絵本をFacebookとxで東大校友会がご紹介くださいました。
東大校友会 「夏の東大100冊」Facebook
東大校友会の「夏の東大100冊」x
今夏の藤沢市「かこさとし作品展」で人気だったのは、展示のほかに絵本をたくさん読める部屋での「パポちゃん」工作や福笑い、塗り絵に加え、すごろくでした。
すごろくは筆者も幼い頃夢中になった記憶があります。かこさとし手作りのすごろくで遊んだのは4歳になるかならない頃だったのではないでしょうか。サイコロに出た数字だけ進むので6まで数えられれば誰でも簡単に参加でき、単純だけれど、その面白さはほかの何物にも代えられないから不思議です。
一番最初に、上がりかと思ったらサイコロの目が合わずに、行ったり来たり・・・。そうこうするうちに後からやってきた人があっという間に上がり!
加古の遊びの本には、しばしばすごろくが登場します。
下は『あそびの大事典』(2015年農文協)にある「はちすごろく」。
幼稚園から小学校へ通い、働いて、ついには女王ハチに謁見!して上がりとなります。途中、戻る箇所が多くあって45コマはなかなか長い道のりです。
サイコロがない場合は鉛筆を利用する方法が紹介されています。
昭和時代の中頃までは、すごろくはお正月遊びの定番でもありました。暮れになると雑誌の付録についてきたり新聞のお正月版に掲載されたりしました。
昭和50年(1975年)に出版された『こどものカレンダー1月のまき』(偕成社)の最後には次のようなすごろくがあります。
だるまちゃん出版50周年記念に出版されたのもすごろくでした。
このすごろくは表と裏面両方で遊べるようになっていて、いろはや都道府県名を知らず知らずにのうちに覚えられる点も魅力です。
大人気の両面遊べる「だるまちゃんすごろく」
すごろくケースの裏面にはいろはが書かれれています
『かこさとしからだのほんシリーズ全10冊』から作られたすごろくもあります。
このすごろくのユニークなところは、ところどころのコマで「むしばカード」をもらってしまう点です。たとえ一番に上がっても「むしばカード」を一番多く持っている人は最下位になってしまいます。
遊ぶ人の年齢によってはこのルールを使わなくても良いかもしれませんが、むし歯の怖さをすごろくで体験できるのです。
お正月と言わず、暑さや天候が厳しく外で遊ぶのがためらわれる時には、すごろく遊びはいかがでしょうか。年齢問わず、きっとお楽しみいただけます。
かざぐるまで先ず思い出すのは『からすのパンやさん』(1763年偕成社)。
並んで寝ている生まれたばかりの4羽の赤ちゃんをあやすかのように、小枝にくくりつけてあります。お父さんのお手製でしょうか。
時が経ち、こどもたちも頑張って、パンやさんは大賑わいとなりますが、そこで活躍するのもこの風車。声を張り上げるお父さんの頭上で回っています。
森のはるか向こうに「かざぐるまが、ちらちら まわっているのが みえたら」どんなにかいいのに、と思いながら森を見上げたことはありませんか。
このかざぐるまは裏表紙にも描かれ、『からすのパンやさん』の物語の大事な小道具となっていることがわかります。
『かぜのひおはなし』(1998年小峰書店)では風の日の遊びとして表紙に登場し、第一場面はご覧の通りです。
そして次の場面で、が吹いて、かざぐるまがくるくる回る様子をみんなで見ていると・・・
さらに、最後の後ろ見返しでは、りすちゃんやくまちゃんもかざぐるまを手にしています。
『てづくり おもしろ おもちゃ』(2021年小学館)ではその題名通り、このかざぐるまの作り方が丁寧に説明されています。
かざぐるまが回るのを見ているのは、思いのほか心が和むものです。作ってみませんか。
越前市かこさとしふるさと絵本館は毎週火曜日が休館です。ただし、祝日にあたる場合は開館し、翌平日を休館とします。
2025年7月8日から8月24までの藤沢市アートスペース、8月6日から23日まで藤沢市民ギャラリーの2ヶ所で開催、入場無料でお楽しみいただいた藤沢市制施行85周年記念事業の「かこさとし作品展」は大勢の皆様にご来場いただき盛況のうちに閉幕となりました。
藤沢市の全面的なご協力、そしてスタッフはじめ関係者皆様のご熱意のおかげで作品展示のみではなく、読み聞かせや工作など楽しいイベントも数多くしていただき、遠方からもお越しくださる方がありました。
特にスタンプラリーを同時開催していただいた越前市からは市長様はじめ多くの方がおみえになり、また藤沢からも加古のふるさと越前市を訪ねてくださる方々がいて、感無量のものがありました。
山田越前市長(右)をお迎えした鈴木藤沢市長(左)
お馴染みの作品に加え、かこさとしが皆様に伝えたかった日本の歴史をお子さんたちのために描いた『あなたのまちです みんなのまちです』や、加古がその出版を見ることができなかった『かこさとし童話集』の挿絵や『秋』そして最新作『くらげのパポちゃん』(絵は中島加名)など、初公開のものもご覧いただき、加古が生きてきた100年を振り返りつつ、これからの社会、日本、世界について思い、考えていただくきっかけになったのでしたらこれに勝る喜びはありません。
展示会が終わり一抹の寂しさはありますが、図書館には多くの著作がありますし、藤沢市内4図書館と市役所本庁舎にはほぼ季節ごとに加古の絵本の1場面を飾っていただいておりますので、お近くの方はご覧いただけたらと存じます。
本展示会のスタンプラリーで越前市かこさとしふるさと絵本館や武生(たけふ)中央公園に行ってくださる方々があり、嬉しいことでした。絵本館ではいつでも30点ほどの絵を展示、無料でご覧いただけますので、ご旅行の計画に入れていただけましたら幸いです。
かこさとし関連のニュースはこの公式サイトとxで発信してまいりますので引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
展示会にご来場いただき、誠に有難うございました。
過ち繰り返さぬ 創作の源
〈私はちいさいときから、秋がだいすきでした。
ところが、そのすてきな秋を、
とてもきらいになったときがありました。
とてもいやな秋だったことがあります。〉
こんな引用からはじまる福井新聞文化欄【作家と戦争ふくい戦後80年下】ではこの作品で描かれた戦中、戦後にかこさとしが目にし、感じ、考えたことをかこさとし自身の言葉を紡いで伝えます。
「手のひらを返すように平和を語るようになった大人たちに絶望し」自らの判断を後悔、「子どもたちには自分の頭で考え、自分の力で判断して行動してほしい」との思いで創作を続けた、と紹介します。
戦争の話を作りたいと最後まで繰り返していたかこさとしが遺した『くらげのパポちゃん』(2025年講談社)にも触れ、秋の最後にある「戦争のない秋の美しさが続きました」という文章をうけ、この記事はつぎのように結んでいます。
「再び訪れた美しい秋が未来永劫続くよう、我々に強い覚悟を求めている。」
2025年8月20日福井新聞 作家と戦争
写真は藤沢市アートスペースで8月24日まで展示の『秋』原画。
「戦争って・・・どう伝える? 絵本で、司書おすすめの4冊
福井新聞、戦後80年のコーナーで、子どもたちにどうやって戦争の悲惨さや平和や命の尊さを伝えたら良いか、を考えるコーナーで、子どもの心理に詳しい識者のアドバイスなどと共に福井県立図書館の司書の方が薦める絵本が紹介されました。
その中で取り上げられたのが『秋』(2021年講談社 )。
この絵本は終戦の前年1944年の秋、美しい青空に起こった悲劇を描いています。18歳のかこさとしが目撃した実話です。
描写の中に流血やご遺体などはありませんが、小学生でしたらこの出来ごとが意味することを理解できることでしょう。
8月24日まで藤沢市アートスペース(最寄り駅は辻堂)で4枚の絵を展示しています。お近くの方はぜひご覧ください。