編集室より

2021/12/01

師走

師走だからでしょうか
だるまこちゃんが走っています。

だるまちゃんも

てんぐちゃんもかみなりちゃんも

おやおや、来年の干支のとらのこちゃんも
そしてその前には、再来年の干支のうさぎちゃんまで走っています。

これは「だるまちゃんかるた」の箱の側面でした。
フダを見てみましょう。

「あ」は、「あしたもあなたとあそぼうね」

「え」の「えんとつえがいたえほんです」には『マトリョーシカちゃん』を夢中で読んでいるだるまちゃんとかみなりちゃん、可愛いですね。

「ん」もあります。
「ん、なんだ 
ん、ん、わかった
んとこしょ」

それでは、新年に向けておめでたいフダでご紹介を終わりとしましょう。
「ひがしに ひかり ひがのぼる」

「だるまちゃんかるた」お楽しみください。

かこさとしが自然に関してどんな思いを抱いていたかは、2021年秋冬号の雑誌「花椿」の特集:Living on This Beautiful Planet 「透明な力を糧に」で林綾野さんが引用しているように、かこの著書『私の子ども文化論』(1981年あすなろ書房)でふれている宮沢賢治の「狼森と笊森、盗森」の自然観に重なります。

賢治のこの作品について、かこは「人間が、その自然の構成の一員として、その制約と相互依存の状況下にあることをえがいたこの先覚者の含蓄を味わって」とし、(中略)次のように述べて「子どもたちの遊びと自然保護」と題する節を結んでいます。

(引用はじめ)
子どもたちは、自然と親しみながら、あそびながら、自然の尊さとそして人間も自然の中の生物の一つであるという自覚を肌で感じとって育っていくものではないだろうか。そして、おとなになって日本の自然をなつかしみ、大事にするひととなるのではないだろうか。それがひいては、将来の日本を背負ってたつ子どもたちに自然保護を呼びかける最善の方法のような気がする。
(引用おわり)

『こどもの文化論』の出版からさかのぼること10年前に刊行された『きんいろきつねのきんたちゃん』(1971年学研/2005年ブッキング)には次のような場面が描かれています。ゴルフ場や別荘地などの大規模開発が盛んに行われるようとしているのを察知して日本の自然が破壊されることを危惧していました。

残念ながらこの本は絶版ですが、かこの絵をいもとようこ氏の絵に替えて出版された『きつねのきんた』(金の星社)版にかこさとしのあとがきがあり、この問題について記していますのでここで全文ご紹介します。

(引用はじめ)
この絵本のもとになったのは、一九七一年にかいた、『きんいろきつねのきんたちゃん』(学習研究社・刊)というお話です。当時、それほど問題になっていませんでしたが、自然をこわしたり、ゆがめたりする人間のわがままな行いを、動物たちを通じて考えてもらおうとした作品です。

それから二十年もの間、たくさんの人たちによんでいただき、紙芝居になったり、時にはミュージカルやアニメ映画にしようというお話があったりしているのですが、もとになった自然と人間の関係は、まだまだよい方向に進んでいないようです。ですからきんたをはじめ、動物たちも、いまも苦労をしていることでしょう。

この本をきっかけに、なぜ二十年以上も、よくなって行かないのかという、本当のわけを、よく調べ、勉強し考えて、正しくするよう力をつくしてくださるのを、願っています。
作者 かこ・さとし

(引用おわり)

この文が書かれてから17年。取り戻すことができない自然破壊を続けてきた17年が過ぎてしまいました。今こそ、かこがこのあとがきに込めた願いを実現させなければならない時であると思いを新たにしています。

クリスマスプレゼントとしてではなく、プレゼントをもらう前にお子さんたちに読んでいただきたいのが、『サン・サン・サンタ ひみつきち』(2019年白泉社)。とびきりのファンタジーで、大人も嬉しい「夢あふれる傑作」と帯にあります。

かこさとし作ですから、物尽くしの頂点とも言えるほど、たくさんのおもちゃが並びます。しかも、そのおもちゃ工場があるのは秘密基地! こっそり潜入して見てみると、あのおもちゃ、このおもちゃが、実はその工場から届けられたのだとわかります。

「サンタはいるの?」というお子さんたちの疑問にも答えています。ですから是非、クリスマスの前に読みたいですね。

クリスマスは多くの国では冬の寒い季節ですが、そんな中でもあたかさあふれる『マトリョーシカちゃん』(1984年福音館書店)はクリスマスのイメージにぴったりです。

クリスマスプレゼントを手作りしようと思いたったら、『てづくり おもしろ おもちゃ』(2021年小学館がピッタリです。赤い表紙でプレゼントとしても素敵ですし、一緒におもちゃを作って遊ぶ時間は、最高に嬉しい贈り物かもしれません。英語版『Chock Full
o’ Fun』もおすすめです。

赤い本、ということでしたら思い切って赤い表紙の科学絵本『地下鉄ができるまで』(1987年福音館書店)はいかがでしょうか。11月18日の土木の日にちなんで、この本を紹介してくださった書店さんもあり、大人にも小さいお子さんにも、特に乗り物好きには絶対に喜ばれること間違いなしです。Xマスセールの垂れ幕も場面の中に描かれています。

そしてさらに赤い色が印象的な表紙の『富士山大ばくはつ』(1999年小峰書店)もあります。この本の最後の部分はこう結ばれています。
(引用はじめ)
高い大きい美しいすがたで、富士山が、長いあいだわたしたちをなぐさめ、はげましてくれたように、富士山のことをよくしらべ大自然のふしぎをしっかり勉強する番です。
ではみなさん、がんばりましょう。
(引用おわり)
火山の多い日本に住んでいる私たちに大切なことを伝えている科学絵本です。

クリスマスにちなんださまざまな分野の赤い本、お楽しみください。

2021年11月4日伊勢新聞・6日琉球新報・8日佐賀新聞・9日河北新報・静岡新聞・10日埼玉新聞・中国新聞・山陰中央新報12 日熊本日日新聞 22日神奈川新聞 24日京都新聞 26日山陽新聞. 12月5日宮崎日日新聞 7日 奥羽日報

今年を振り返るのは少し気が早いかもしれませんが、2021年11月に上記各紙で報じられたように、2021年は出版に恵まれた1年でした。
1月には、『くもとりやまのイノシシびょういん ー7つのおはなしー』(福音館書店)がでました。これは読み聞かせ・語りを目的にかこが書きためていたお話で、コロナ禍のステイホームで苦しい中、気持ちの和らぐお話として楽しんでいただいたという嬉しいお声が届いています。

かこさとしの伝記が初めて出版されたのも今年でした。初出の写真も豊富でかこさとしを知るには、必読です。わかりやすい言葉でかこの内面を伝え、生きる意義を考えさせられる、お子さんにも大人にもおすすめしたい一冊です。上記の新聞記事では著者の言葉を引用し詳しく紹介しています。

日本エッセイスト賞を受賞した珠玉のエッセイが文春文庫として登場したのは5月。ここにも貴重な写真やかこの挿絵がさらに加えられ、深い洞察が数々の思い出話の中に散りばめられ、読みやすい作品です。

加古が興味を持って研究した子どもの遊びは、子どもの成長にとって不可欠で、それにより想像力と創造力を育てる原動力になります。そのお手伝いとして、身近にあるものを使って自分でおもちゃを作る楽しさを紹介する『てづくり おもしろ おもちゃ』(小学館)は、1968年アメリカで発売された『Chock Full o’Fun』の日本語版で、この7月に英語版の復刻と合わせて出版されました。

復刊といえば、『うさぎのパンやさんのいちにち』『たろうがらす じろうがらす』『かわいい きいろのクジラちゃん』(いずれも復刊ドットコム)が次々に復刻され、こんな絵本があったとは!」と驚きを持って手に取っていただいています。

そして大きな反響を呼んだのが、絵本『秋』(講談社)。一人称で語られる18歳のかこが目にした戦争の凄惨な出来事はこれまでかこが語ったことがないもので、秋の美しい風景と対象的で胸にせまります。後年かこが子どもたちのために人生をかけて、とりくんだのはこうしたことがあったからなのです。

かこ作品の中でおよそ4分の1を占める紙芝居については、まとめたものがありませんでした。そこで、一冊の本にして8月に出版されたのが『かこさとしと紙芝居 ー創作の原点ー』(童心社)です。かこ自身による紙芝居の歴史や考察などを収録、現存する自作の紙芝居全てのあらすじも掲載しています。研究資料としても読み物としても面白いこの本について、記事では詳しく紹介しています。

また、記事では加古総合研究所が資料画像等を提供した長野ヒデ子氏による『かこさとしの手作り紙芝居と私』(石風社)についても合わせて伝えています。

このように2021年には新刊、復刊合わせて10冊が刊行され、いずれもかこさとしを知るのに欠かせないものですし、新しい情報に富み、読んで面白い、見て楽しいものばかりです。是非ご覧ください。

2022年卓上カレンダー

「来年のことを言うと鬼が笑う」とはいうものの、そろそろ来年のことが気になります。

2022年の卓上カレンダーはすでに販売開始、本年の『だるまちゃんとてんぐちゃん』に続き、『だるまちゃんとかみなりちゃん』が登場です。というわけで、来年のことを言うと「かみなりちゃん」が笑うのです。

本年のカレンダー同様、各月の行事にちなんだ絵や解説が『こどもの行事 しぜんと生活』(小峰書店)のシリーズから掲載されています。豆知識が確認できる楽しいクイズ付きというのが新しいところ。お手元でご愛用いただけたら嬉しいです。

2022年かみなりちゃんカレンダー

石、粘土版、木簡、皮など人間は様々のものに文字を書いてきました。電子機器に頼る現代の私たちですが、紙を手放すことはできません。紙を最初に作ったのは、中国の蔡倫と言われていますが、『新版 科学者の目』(2019年童心社)に紹介されているように「樹皮、麻布、ぼろきれ、魚網などを使って紙(蔡侯紙)をつくり、105年に和帝に献上した」そうです。

しかし、「考古学上の調査によると蔡倫よりもっと古く、紙らしいものがあるのに、紙の発明者として蔡倫の名が伝えられている」理由が重要なのだと続きます。是非、本文をお読みください。

今までゴミと思われていた玉ねぎやじゃがいも、みかんの皮や茶殻など様々な野菜を使った紙なども誕生しています。

以前ご紹介したバナナの茎の繊維を利用したバナナペーパーの本、『ミラクルバナナ』(2001年学研)もあります。

『ミラクルバナナ』は日本、ハイチの大学や企業など多くの協力で出版され、日本語の文をかこがお手伝いしました。あとがきのような最後の部分をご紹介します。

(引用はじめ)
「世界中のおともだちに バナナの紙をみてもらおう」
みんなでそうだんし、バナナのせんいをあつめて、船で日本におくることになりました。

日本の港についたバナナのせんいは、トラックで、紙をつくる工場にはこばれました。

そして、できあがったのが、この絵本につかわれているバナナの紙です。

国をこえて、みんがきょうりょくしてつくった、たいせつな、すばらしい紙です。
(引用おわり)

紙を通してSDGsを考えるきっかけにもなりそうです。

この本を通じ、ハイチのことを知ろうという小学校の呼びかけは以下をご覧ください。

ミラクルバナナ

尚、『新版 科学者の目』については2021年11月14日佐賀新聞「県立図書館のドンどん読書」コーナーで紹介。記事は以下でどうぞ。

科学者の目

絵本の絵は紙芝居の絵と異なり、文字が入る部分を考慮して絵を描かずにあえて余白を残すことがあります。例えば『だるまちゃんとてんぐちゃん』(1967年福井の館書店・上)や『からすのパンやさん』(1973年偕成社・下)がその例です。


もちろん全ての絵本がそうであるわけではなく、絵の上、あるいは絵の背景に文字を入れることもあります。『かわ』(1962年福音館書店)は川を中心にその流域の様子をページいっぱいに描きますので余白はありません。

そこで『絵巻仕立てひろがるえほん かわ』(2016年福音館書店)では、全場面を一枚の絵巻のようにつなげ両面に印刷してあります。表面には言葉を入れず絵のみ、7メートルに及ぶ文字のない画面は、まさに絵巻物のようです。

上の2枚の絵で、上側にあるのが『かわ』、下側が『絵巻仕立てひろがるえほん かわ』の同じ場面です。この裏面では、川だけを着色したモノクロ画面に文字を入れるというユニークな仕立てになっています。

『かわ』よりさらに小さなお子さん向けの『かわは ながれる かわははこぶ』(2005年農文教)も同様で、現在越前市絵本館のテーマ展示【水】(2021年11月23日まで)で飾っていますので、お近くにおでかけの際は是非ご覧下さい。

同じく展示中の『あわびとりのおさとちゃん』(2014年復刊ドットコム)にあるこの場面は、ご覧のように文字と絵を仕切っています。絵としても引き立ち、文字も読みやすい画面構成は緊張感があり日本画風の雲霧の雰囲気も感じられ、昔話にぴったり合っています。

かこは、絵本をつくるとき絵と文字が一緒にあって完成した形になるようにしている、と常々申しておりました。お手元にあるかこ作品をそんな視点でご覧いただくのも一興かもしれません。

2016年に復刊されて大きな話題になったこの絵本。大人もこどもも、もう一度読んでみたいと思うのは、1983年出版当時のかこの「あとがき」にこんな言葉があるからでしょうか。

一部をご紹介します。
(引用はじめ)
この本は、少数でも優れた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な「民主主義の真髄」を取り戻したいと言う願いでかいたものです。
(引用おわり)

BSNキッズプロジェクト「大人の本棚・こどもの本棚」で紹介されました。以下でどうぞ。

こどものとうひょう おとなのせんきょ

2021/10/23

お天気の本

お天気は子どもたちにとっても大きな関心ごと。雨では外遊びはできないし、雪は雪国以外では待望のものでしょう。『くもりのひのおはなし』(1998年小峰書店)で描かれているように、靴などのはきものを飛ばして落ちた向きでお天気占いとしたことが誰にでもあるのではないでしょうか。

このシリーズ(1997〜98年小峰書店)では、晴れ、曇り、雨、風、そして雪の5つのお話がありますので、空模様に合わせて読み分けるのも楽しそうですし、明日の天気を予想して選ぶのも面白いかもしれません。

どのお話も、さあちゃん、ゆうちゃんのおうちから始まり、この二人の子どもと動物たちが、それぞれの天気にふさわしい遊びを楽しみます。きっと読み終わったら同じ遊びをしたくなります。

内容に加えタイトルがかこの手描きであること、前・後ろの見返しも本文同様のしっかりとした絵があることも楽しみな見どころです。

実は、さあちゃんゆうちゃんのおうちが越前市の武生(たけふ)駅前にある屋内施設、「てんぐちゃん広場」に再現されています。どなたでもご自由に入場できますが、お子さんの年齢により入場できるエリアを分けていますのでご協力お願い致します。

「てんぐちゃん広場」については以下で写真とともに紹介されています。

てんぐちゃん広場

ずいぶんセンセーショナルな題名ですが、内容もかなり、切り込んだものです。
この本が出版されたのは、1986(昭和61)年、まだテレビのアンテナが家々の屋根に立っていた時代です。

野球の試合や劇場でのコンサートを生中継していたある晩のこと、テレビの画像が突然消えてしまいます。事故でもテロでも、戦争でもなく、原因はスポンサーの故意によるものでした。「とつぜん みえなくなった」ことでかえって高視聴率、コマーシャル会社は大成功と大喜び。。。

現実にこのようなことが起きるはずはないのかもしれませんが、何故か、さもありなんと思ってしまいます。
当時と比べたら、2021年の私たちは視聴率やスポンサーのことなどをずいぶん知っているようですが、かこのあとがきをお読みください。

あとがき

(引用はじめ)
今、日本ではテレビを見ている人がとてもたくさんいます。そして、人気のある番組や評判の出演者については、人々の話題になりますが、そのテレビがどうやって作られ、組み立てられるのかは、あまり知られていません。特に、テレビ局や会社で働く人たちばかりでなく、視聴率とかスポンサーとか、背後にある大きな因子、経済的側面については、ほとんど関心がはらわれていないようです。テレビという華やかな目に映るものだけでなく、画面にうつらないけれど、テレビジョンというものの一番重要なことに注意を向けてほしいと思っているところです。
かこさとし
(引用おわり)

このあとがきが書かれた頃の日本では、カラーテレビが複数台ある家庭が半数以上ありました。
テレビを見ない世代も出現している現在、テレビジョンではなくスマホやパソコンの画面が突然消えたらどうなるのでしょうか。。。