あとがきから

まもなく迎える5月には母の日、6月には父の日がありますので、「まま、パパ」が題名に入っている「かこさとし 食べごと大発見9」のまえがきにあたる「この本のねらい」とあとがきをご紹介します。

この本のねらい ご整腸への感謝

(引用はじめ)
子どもたちの食事の嗜好調査によると、野菜は嫌い、低位の部になっています。そこで緑黄野菜は体に良いとか、ビタミンやミネラル、さては繊維質は胃腸の働きを助けるとか、整胃整腸作用が美容のもとだと言った論ですすめようとする方策がにぎやかです。

結構なことですが、食事は理屈ではなく、食べるのは当人の意向です。だから例えば、畑仕事が手間取り、とうに正午がすぎた時、もいで塩も何もつけずに食べたきゅうりが満足をもたらすように、空腹とおいしさ、もっと突き詰めれば正しい全身の運動、筋肉の活動と、適切で巧みな調理が、野菜のご馳走の基本なのではないのかと留意して、特に美味しく楽しい野菜の本にするよう心がけました。

どうぞよろしく。ご整腸(!)ありがとうございました。
(引用おわり)

あとがき

(引用はじめ)
食卓の皿やおはちに、肉や魚や、卵のないときがあっても、野菜は必ず出てきます。ことさら野菜料理とか、葉っぱのおひたしを大皿山盛りと言うことはなくても、みそ汁の中や、あぶらげの横にそえられているのが野菜です。

お料理の主人公としてでてくるのはまれですが、脇役としていつもひかえ目であるが、しっかり役目を果たしている野菜は、太陽と空気、そして大地が育てた産物です。脇役でつつましくひかえている野菜は、そうした大きな力、みずみずしい活力、無限の恵みを毎食卓、少しずつ運び、伝え、はげましてくれているように思います。

その白やみどりの手紙や歯ざわりの良いメッセージを、どうぞこれからもよく味わって、よんでください。
(引用おわり)

下のような場面から始まりますが、春の夜空のお話です。
「あとがき」をご紹介します。

(引用はじめ)
夜空の星を見て、なぜ光っているんだろうと考えたり、これから宇宙や星のことをうんと知りたいなぁと思っているみなさんに、この“星の本”をおおくりします。はじめて読む人や、ちいさい子どものための、やさしくてたのしい、いい星の本を見ていただきたいと、ながいこと、しらべたり考えたりしてきました。

さいわい藤井旭さんが、素晴らしい春の星の写真をたくさんとってくださったので、ようやくそのねがいがかなえられました。北斗七星や“たすきのちかちゃん”をおぼえたら、外へ出て春の大三角形や、スピカの星をみつけて、星をすきになってください。
(引用おわり)

“たすきのちかちゃん”とは一体なんでしょうか。かこさとし流、お子さん向けのあるものの覚え方の出だしです。この後に続きがあるのですが、ヒントは、最初の”た“は“太陽”の“た”です。

地震のゆれ、津波の恐怖、食い入るように見たテレビ画面の信じがたい惨状。何も手がつかず、見えない放射線に怯えるしかない日々。一体どうしたら解決できるのか。未曾有の被害に見舞われた3月11日がまた巡ってきます。

かこさとしは、当時執筆が終わり編集部にあった『こどもの行事 しぜんと生活3月のまき』(2012年小峰書店)の原稿を差し戻してもらい3月11日の原稿を急遽この災害のことに描き直して出版しました。決して忘れてはならないという思いからに他なりません。

2013年に刊行された『からすのてんぷらやさん』のあとがきにも、あの日のこと、そして様々な災害を思い出し以下のように記しています。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
この本は、からすのパンやさんの三番目の子に生まれた「レモンちゃん」のその後のお話です。いつのまにかレモンちゃんは、姿も心もきれいなステキな女の子となっていました。いつもは静かで楽しい「いずみがもり」ですが、ときには、思いがけない事件やわざわいが起こります。そんな時、レモンさんやその仲間がどうしたかの話です。

私は戦災や震災の時、レモンさんのような方がたに何人も接して、平時では得られる貴重な教えをいただいてきました。そして人間の社会は、ただ大勢いるのではなく、たがいに助けあい、補いあって、社会が成り立つことを知りました。

それが、このお話をかこうとおもったきっかけです。
(引用おわり)
尚、本文は縦書きで全ての漢字にふりがながあります。

2月も半ばを過ぎ、雛人形が飾られる候になりました。表紙、裏表紙もその趣向の『子どもの行事 しぜんと生活3月のまき』のあとがきをお読み下さい。

女の子のためのひな祭り

(引用はじめ)
3月の行事といえば、まず「ひなまつり」でしょう。この本にもあるように、「ひなまつり」は中国から伝わった、けがれや病気を人形にうつしてながすならわしや、女の子のひいなあそびなどが一緒になったものです。

ですから、「ひなまつり」には、昔の人が病気や災いをどんなに恐れ、こまっていたかということと、昔、男の人が尊重されていた時代に、女の子の成長を祈り、いわっていた人びとの思いがこめられています。

病気の知識や医療が発達し、男も女も同じように差がなくくらせるようになった現在でも、とてもだいじなことだとおもいます。
(引用おわり)

記録的な豪雪となっています。いったいどうして、雨や雪が降るのか、小さなお子さんにもわかるように天候のことを説明する科学絵本です。伸びやかな優しい絵で親しみやすいことと思います。
前書きに当たる言葉がありますので、ご紹介しましょう。

(引用はじめ)
自然は、とても うつくしかったり
すごい ちからを しめしたりする。
それには ちゃんと わけがある。
やたらに かざったり、めちゃめちゃに
まちがった ことを しているのでは ない。
自然のうつくしさや ちからには
きっちりとした すじみちがあるのだ。
この すばらしい せんせいから、
たくさんの ことを おしえてもらおう。
まなんで かんがえよう。
そして 自然を だいじにしよう。
(引用おわり)
上記、自然にはふりがながついています。分かち書きは本文のままです。

あとがき

(引用はじめ)
みんなが見ているもので、とても不思議なもののひとつに「雲」があります。毎日のように現れているのに、その形も色も動きも、全く同じということがありません。そして雨や雪、あられや雷といった、天候に深く関わっているのですから、人間の生活にとても大事なもののひとつです。幼い読者にこの不思議で大事なものを知っていただきたいと努めましたので、どうぞ「実物」を見ながら読んでいただければ幸いです。
(引用おわり)

2階まで積もった雪にそれどころではないとお叱りを受けるかもしれません。雪が目の前にあるなしに関わらず、自然の「すごいちから」を改めて感じざるを得ません。大雪をもたらす雲がこれ以上発達しないことを祈っています。

新旧の暦と天体のうごき

神秘的な皆既月食があり、2月を迎えました。
『こどもの行事 しぜんと生活2月のまき』裏表紙には、節分、豆まきのような様子が見られます。立春が来て日差しが増してはくるものの、かまくらに雪下ろしと雪国ではまだまだ厳しい寒さが続きます。

暦は現代の生活にもなくてはならないものです。その成り立ちは天体観測によるもので洋の東西を超えた人類の知恵の結集とも言えそうです。なぜ2月だけが短いのか、閏年はどうしてあるのかなど、是非本作でお読み下さい。
あとがきをご紹介します。

あとがき

(引用はじめ)
カレンダーや学校の行事など、みな太陽暦(新暦)なのに、各地の行事の中には、旧暦やひと月遅れで行われているものがあります。すべて新暦にすればいいのにという意見もあります。昔の人たちは、月の満ち欠けを用いて昼と夜の時間や四季の変化をたくみにはかり、間違いのないよう工夫をして、農耕や生活を実行していました。この旧暦と新暦の関係と違いを知る事は、太陽・地球・月の動きを正しく知る機会となります。むかしの暦などと思わずに、宇宙と人間の生活を考えるきっかけにしましょう。
(引用おわり
本文は縦書きで全ての漢字にふりがながありますが、ここでは省略しています。

一年中 生のトマトやキュウリが食べられ、冬であっても室内で水泳ができる暮らしの中で風物詩と呼べるような事柄は随分減ってしまいましたが、自然の恵みを想う時、四季のある日本では気候の変化やそれに伴う先人たちの工夫を感じ取ることは心身にとって大切なように思われます。

感傷的な懐かしさではなく、ほんの少し前まで先人たちが苦労してきた様々なことがらと関係していることも多々あります。そのような視点から、旧来のおまつりやしきたりに込められた願いをご紹介する絵本が『こどもの行事 しぜんと生活』です。その1月のまきのあとがきをご紹介します。

1月あとがき

むかしのひとの力や知恵や心のあつまり

(引用はじめ)むかしのひとの力や知恵や心のあつまり
1月は行事が特におおい月です。日本にすんでいた昔の人たちにとって、1月は1年間の農耕のはじまりの時で、田畑をまもってくださる歳神さまを迎えたり、そなえものをするなどの大事な行事があるので「正月」といったことを、はじめに述べました。

このように、日本の行事やならわしのうち、この本では、その理由と行事にこめられた人々の思いやかんがえもあきらかにして、次の時代に伝えるようにえらびました。むかしの人たちが持っていた力や知恵や心を総動員して、生活をささえようとしたことを、この1月の巻でしっていただきたいとおもいます。
(引用おわり)
なお、本文は縦書きで漢字には全てふりがながあります。

日本の行事には、古くから伝えられたもののほか、中国など海外から伝えられたものもあるため、いつ頃に伝えられたのかを示す年表が各巻末にあり、大人にとっても参考になります。また、1月の巻では「世界の国ぐにの新年の行事やあそび」も紹介しています。

今更あとがきをご紹介するまでもないかもしれませんが、「だるまちゃん」と共にかこさとしの代名詞となっている本作のあとがきを記します。ちょうど今から45年前に書かれたものです。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
私は今までに、烏を主題にした作品をいくつか作ってきました。その中で、この話の底本になったのは、1951年3月、私の先輩にあたる方の結婚のお祝いにまとめた手作りの絵本で、その後の子ども会の中で仕上げられていったものです。「からすのおはなし」「からすの紙芝居」として喜んでもらってきた二十数年の間、この作品に関して、わたし一人の胸の中に秘めてきたことがあります。こんど本になってさらに多くの方々に見てもらえるようになった機会に、そのことーーーつまり、大きな影響と示唆を与えられたもう一つの芸術作品について述べたいと思います。

舞踊に関心をお持ちの方なら、きっと知っておられると思いますが、ロシアに、モイセーエフ舞踏団というのがあります。数多くの上演内容と伝統をもつ、優れた舞踏団ですが、その演目のひとつに組曲「パルチザン」と言うのがあります。長途につかれ馬上に眠りながらの行進、索敵、斥候、待ちぶせ、銃撃戦、味方の負傷、突撃、勝利、そしてまた次の敵を求めて荒野に消えていくパルチザンの情景が、詩情豊かに息もつかせぬ民族舞踊でつづられた作品でした。私はそのみごとな内容に、芸術的な香気にうたいあげたすばらしい演出よりも、そこに登場する兵士・農民・労働者・老若男女の一人ひとりの人物描写が、こころにくいまでに人間的なふくらみとこまかさで舞踏的にえがきつくされていることに、ひどく心をうたれました。

個々の生きた人物描写と全体への総合化の大事なことを、私はモイセーエフから学び、さて、からすのの一羽一羽に試みてみたのがこの作品です。どうかそんなわけですので、もう一度カラスたちの表情を見て笑ってください。
(引用おわり)

本文は縦書きで、ほとんどの漢字にふりがながありますが、ここでは省略しています。

かこさとしの展示会では、必ずこの作品のどこかの場面が展示されますが、表紙、裏表紙、扉、そして見返しを含めた全点が展示されたことは今までにありません。2018年1月27日から2月6日まで開催の「たかさき絵本フェスティバル」では初めてこれら全てをご覧頂けます。また、数点ですが下絵も展示いたします。本とは違い文字のない画面でじっくり、からすの個性あふれる表情をお楽しみください。

45年前に出版された『どろぼうがっこう』の面白さは、語るより読んでいただくのが一番です。著者にとっては、ある意味衝撃的なかけがえのないものですが、読者の皆様にとっても、きっと思い出や逸話に事欠かないことでしょう。

「たかさき絵本フェスティバル」(2018年1月27日から2月6日)では、表紙、裏表紙、全場面を展示します。初日のトークイベントではどんな裏話が飛び出すことになるのかお楽しみに。

あとがきをどうぞ。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
今、手もとに残っているこの作品の原作は、13年前に他に紙がなかったわけではないのに、私の論文の下書きの裏に、黒と黄色の2色で乱暴に走り書きした紙芝居でした。当時の私は、「子どもたちに与えるものは、子どもたちだから最高ですぐれた水準のものであるべきだ」という主張をいだいていました。しかし、極度に時間のない毎日を送っていた上、ちょうど学位審査があったので、一種の笑劇(ファース)としてまとめたこの作品を、こんな乱暴な絵によって子供たちに見せることになったのを、残念に思っていたのです。

ところが、私のこんな恐れを裏切って、子ども会で見せた最初から、この紙芝居は圧倒的に子供たちに迎えられました。単色に近い彩色の、しかもぐっさんも構図もいい加減なこの紙芝居を、何か事あるごとに子供たちは"見せて"とねだり"演じろ"とせまりました。

何度となく、そのアンコールにこたえながら、私はかれらが表面上のきらびやかなケバケバしさや豪華さにひれるのではなく、盛り込まれた内容の高い面白さを求めているのだということを、子どもたちに教えられたのです。

その当時の子どもたちに教えられたことを思い返し、当時の後悔をくり返さないよう注意しながらまとめてみたのが、この「どろぼうがっこう」です。十三年たった当時の子どもたちや、十三年後の今の子どもたちが、どうこの本を迎えてくれるでしょうか。
わたしのおそれとはずかしさは、まだまだつきないようです。
(引用おわり)
尚、本文は縦書き、漢字には、ほぼふりがながついています。

2018年1月27日から2月6日に開催される「たかさき絵本フェスティバル」はご案内のようにかこさとしの展示会史上、その会場規模、出展画数、購入できる著作の幅、ゲストの多彩さなど、何れをとってもこれまでに類のないものです。一人の著者のみの展示というのも、このフェスティバルでは異例のことだそうです。

中でも、一冊の本の全ページの画をしかも4冊分展示することは注目に値します。特に『小湊鐵道沿線の旅 出発進行! 里山トロッコ列車』は、原画ならびに下絵も全ページ分、かこさとしの手書き解説を含めて展示致します。2016年、かこさとし卒寿の作品を是非まじかでじっくりご覧いただけたら幸いです。あとがきをご紹介しましょう。

あとがき

(引用はじめ)
老化の為、とみに世情にうとくなった私がトロッコ列車を知ったのは、望外にも小湊鐵道石川社長より、パンフレット添画の依頼を受けたに始まります。地域の方とともに、着実熱心に進めてこられた計画の、健康であることと未来性に感動し、陋筆を省みずお手伝いすることとなり、下絵を進めていたおり、俊敏な出版社の目に留まり、列車運行を目指しての絵本を作ることになりました。

せっかく見ていただく読者には読者に少しは良い内容をと、いただいた資料を読むうち、房総は縄文人の先祖の人たちの遺跡点在の地であり、壬申の乱にまつわる古代史伝説や、「南総里見八犬伝」のモデル女性の寺、さては磁場逆転層の所在など、歴史、文化、自然科学に至る総合多元の由緒の地域であることを知り、それらをできるだけお伝えしたいと思い、ご繁忙の中、石川社長に何度も下絵や原稿を詳細に点検、教示をいただくとともに、温かい励ましをくださったことに感謝いたします。

以上がこの絵本出版の経過ですが、どうぞ、機を見て、里山トロッコ列車に乗車され、房総里山の自然と文化を体験されるようお勧めして、あとがきとします。
かこさとし
(引用おわり)
尚、本文の漢字には全てふりがながありますが、ここでは省略しています。

上は本作あとがきのページ。
尚、展示会情報にもあるように1月27日には、小湊鐵道石川社長、この本の編集者、偕成社・千葉美香氏と加古総合研究所の鈴木万里の三人が展示会場の絵の前で語るトークイベント「かこさとしの仕事を語る」が開催されます。