あとがきから

てまりうたを思い出させるような題名で、[遊びの歌劇舞踏会]という副題がついている本書は、世界各地のこどもの遊びや行事を紹介する内容です。

ぶらんこやぶらさがりは世界中で大変古くから遊ばれていたこと、けん玉遊びはヨーロッパやエスキモーの人たちも遊んでいるとか、こどもと仲良しの動物なども紹介されています。遊びからお国柄がしのばれますし、共通点も見つかり楽しさいっぱいの絵本です。

一方、そのあとがきには、こどもたちの健やかな成長を脅かすものへの歯に衣着せぬ言葉があります。

あとがき

地球人は、多くの国・民族に分かれていますが、30億年前、地球に生まれた生命が進化し、4百万年前現れた人類祖先の皆一族と言えましょう。その後の居住条件や食性が、変化と多様をもたらしたのは、すばらしいことです。胎乳児期は、もちろん、幼少期の子どもは、基本的に全世界同じ経過をたどることを思えば、国や民族間の対立抗争は悲しいより暗愚なことです。この本は、そうした大きな喜びと、政治家や経済関係者への責任告発を込めてつくりました。

『からすのパンやさん』のお気に入りのパン投票で一番多くの票が集まったのは、「かめパン」でした。古くから占いにも使われたかめの甲羅、鶴亀などおめでたい生き物でもありますね。

「かめパン」のご紹介では触れませんでしたが、加古が訪れたセイシェルという国を舞台にした『あおいしまのゾウガメどん』(1989年偕成社)という絵本があります。そのあとがきをここでご紹介しましょう。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
アフリカの東、マダガスカル島の北のインド洋に、セイシェルと呼ぶ島々があります。
美しい海と素晴らしい陽光の自然は、ヨーロッパの人の憧れの島となっていますが、アフリカ本土から離れて進化した珍しい生き物が、ゆったりとすんでいるので、熱心な研究者も一度は訪れるところとなっています。
今から8年前、この島の美しさに感激した私が、この島国の、かわいい動物たちをモデルにして、いつまでも美しく静かであるよう祈って作ったのが、この物語です。
国章にも描かれている動物たちの本当の名は、長くて難しいので、短い親しみやすいものにかえておきました。
(引用終わり)

越前市武生中央公園「まめちゃんえん」」のモデルとなり、市内を走るバスの車体にも描かれている『あさですよ よるですよ』(1986年福音館書店)は今から40年近く前の作品ですが、人気は衰えるどころかますます高まっています。

福音館書店の「えほんのいりぐち2歳児向けセレクション」8月号として7月に、この絵本が配本されます。

1986年8月号として最初に出版された当時の折り込みふろくにかこが寄せた文章の再録が、今年のこの号にもついていますので、ご紹介致します。

(引用はじめ)
中学1年の時読んだマザーグースの豆の歌が、強く印象に残っています。その中に「ピース・ポリッジ・ホット」と「ピース・プディング・ホット」というよく似たのがあって、竹友藻風さんのを転訳(?)して喜んでいました。

〽︎あついえんどう豆ポリッジよ
 さめたえんどう豆ポリッジよ
 なべのえんどう豆ポリッジよ
 ここのかすぎたポリッジよ
          
 Pの字 ぬいて かけるなら
 おまはん 学者になれるだろ

最後の二行が私の英語力では、未だに謎で、こんなことを想い出しながらつくりました。
       *

豆には多くの種類があり、英語のピースとビーンズも区別されていますが、この豆ちゃん一家はどちらなのでしょうか。銀行名に使ったビーンズには、俗語でコゼニということ、したがってまめちゃん世界の一六銀行と思ってくだされば結構です。

では皆さん まめで またこんど。
(引用おわり)

6月も半ばをすぎました。

【からすのパンやさんサイト】で時々登場する『お話こんにちは』シリーズの6月の巻のあとがきをご紹介します。

(引用はじめ)
6月の巻の話はいかがでしたか。

6月は、日本では、梅雨と言って、北海道をのぞいた地方では、とても雨の多い季節となっています。この時期には、しとしと、雨がふりつづいて、湿度が高くなり、その上、ちょうどよい温度があるので、カビがはえたり、食べ物をくさらせる、バイキンがふえたりするいやな季節です。

しかし、いっぽう、この雨が木ぎをそだて、田畑の作物を成長させるのに役立つのです。

みなさんは、雨の日、外で遊んだり、スポーツをしたりすることはできませんが、べんきょうばかりでなく、お話の本などもたくさん読んで、おおいに、のびていく力をたくわてください。

加古里子
(引用おわり)
本文は縦書きで漢字にはふりがながあります。

【からすのパンやさんサイト】66おさかなパンで、少しご紹介した『すしさしみ貝かに塩やき』(農文協)は、かこのお魚に対する熱い思いが伝わる内容です。

冒頭で「お魚は三しいです」として「あたらしい、おいしい、うつくしい」とかいています。
魚のおろしかたや、2見開きにわたってすしを取り上げ「おすしはおいしい水族美術館」という見出しのように美しく描かれたすしの数々に思わず食べたくなってしまいます。

そのあとがき「タイ・えびすそして海の彼方」をどうぞお読みください。

「タイ・えびすそして海の彼方」

(引用はじめ)
この巻の最後に、タイと名のつく魚たちがたくさん出てきましたが、「あやかりタイ」がこんなにもあるというのは、ことのほか、日本人がタイ好きであるだけでなく、親しみ、あこがれ慕っていることを物語っています。

タイというと、七福神の恵比寿様を思い浮かべますが、エビスという言葉には、野蛮で遅れた者と見知らぬ異人という意味があって、はじめは漁師や海人を卑下したり海岸に住む異人・外人を呼称していたのでしょう。ところが、このなかですぐれたた人や集団ができて、それらのもたらす素晴らしい海の獲物や、技術が注目を浴び、尊敬をもたれ、「様」という尊称をつけてよばれながら、幾世代を経るうちに、その力をたたえる伝承やあやかりたいという祈りが、さまざまな信仰や民族行事をうみだし、ついに渡来人エビスは、海産物と幸福を海の彼方からもたらす神となったのだといわれています。

川の流れの果てや、水平線の彼方に、希望をもち、未来を託していたように、楽しい食事によってすばらしい生活をきりひらかれるよう祈ります。ごきげんよろしゅう。
(引用おわり)

かこは飛ぶものへの憧れを幼い頃から持っていました。トンボ、紙飛行機、そして飛行機。

そんなとぶものたちへの思いあふれる一冊、『あそびの大宇宙5 すずめなくとんびとぶのあそび』(1990年農文協)のまえがきには、「ひとよ、こどもよ きよく あれ とりよ せかいよ たかく あれ」とあります。

あとがきをご紹介しましょう。この大宇宙シリーズの10巻は現在は『あそびの大事典』(2015年農文協)として出版されています。

子と鳥たちに寄せるおもい 

かこ さとし

(引用はじめ)
子どもたちは、よく空を見上げたり、梢の囀りに耳を傾けて、鳥たちに思いをなげつのらせます。
識者は、その心情をがんぜない空想とか、変身願望といって片づけますが、これこそ、子どもという成長する者だけが持つ開拓への憧憬、未来への希望の表れだと思われます。子どもたちが他の生物に対するより、もっと強いあこがれを、この翼をもつものに託している事を知るなら、鳥への理解と連帯がもっと深まることでしょう。そうした子と鳥へのメッセージが、このパートです。
(引用おわり)

台所でできる立体幾何のイキイキ観察

「ごちそう」といっても豪華なステーキやハンバーグでも、上のような素敵なケーキ(『だんめんず』より)でもなく、ふつうの食べ物の意味です。

身近にある食材を切って知る断面のことを、ちいさいお子さんにわかるように説明していて、文のみかこさとしです。

あとがきをご紹介しましょう。

(引用はじめ)
私たちは、よく「まるい棒を持ってこい」とか、「あの人は、まる顔だ」といいますが、よく考えてみると、なかなかむつかしい表現です。「棒がどうしてまるいのか」「卵に目鼻をまる顔というのなら、卵はまるといえるのか」とひらき直られるかもしれません。

ことばのやりとりはさておき、こうした「まるい」という表現の中には、「断面や投影が円形となるもの」の認識がもとなっていると考えられます。簡単な平面図を見ただけで、家の完成形を思い浮かべる事は、なかなかむつかしいように、平面と立体を結合変換するのは、大脳の高度の働きが必要です。それなのに高次の内容を何の苦もなく、ことばであらわしたり、聞いたりしているのは、日常の経験と、特にあの台所で、毎日スッパリ切っておられる。おかあさん方の知恵の集積があるからだと思います。

このすばらしいおかあさんの知恵を、少々わけていただいて作ったのがこの本です。どうか指の断面などつくらぬよう気をつけて、おたのしみください。
かこ・さとし 
(引用おわり)

断面図については『だんめんず』『だいこんだんめん れんこんざんねん』(いずれも福音館書店)があります。どちらも長い間、お読みいただいている科学絵本です。合わせてお楽しみください。

その1でご紹介した本より少し対象年齢が上のお子さんたち向けの本4冊です。

『ねえねえなにかうの』(2002年ポピラ社)は、『きてよ きてよ はやくきてー』などと同じ大きさ、作りの絵本ですが、おままごとに夢中な二人の子どもがお母さんの買い物についていきます。行く先々のお店で色々な商品が並んでいるのでお買い物や品物の名前の勉強ができる楽しい絵本です。

『ことばのべんきょう』シリーズ4冊(福音館書店)の中にも『くまちゃんのかいもの』というさらに小型のロングセラー絵本もあります。

『はいはいのんのん どっちゃんこ』(1996年小峰書店)は、「かこさとしの ちいさいこのえほん」として出版されたものです。はいはいができるようになったあかちゃんが主人公で動物と一緒に面白く、楽しいことをします。擬態語や掛け声が満載で、動作を真似して身体全体をつかって読みながら遊んだりできそうです。

『いろいろな かたち さまざまな いろ』(1988年フレーベル館)は「かこ・さとしの えほんでべんきょう①」として出版されたものでその名の通り、色や形を学ぶ第一歩となるものですが、ただの暗記ではなく、その後の基礎を作るために考えられています。

『たのしい たしざん しっかり ひきざん』(1988年フレーベル館)は「かこ・さとしの えほんでべんきょう②」のあとがきに本書の意図が記されていますのでご紹介します。

あとがき

(引用はじめ)
子どもは成長につれて未知のものにひかれ、理解したい、学びたいという意欲をもってきます。この本は数に興味をもちはじめた子のたすけとなるように配慮してつくられました。
内容として10までの数の概念、順序、たし算、ひき算をやさしく、述べてあります。特に将来もっと大きな数の位どりや、加減10進法への理解に資するため、「数」の対応として、タイルを登場させています。指や小石にはない特長を、家庭や園で指導される場合、活用されるなら幸いに思います。
かこ・さとし
(引用おわり)

『こどものカレンダー』は各月ごとの12巻からなるシリーズで、日めくりカレンダーのように、毎日1見開きにその日にまつわる出来事の紹介や、季節の行事、自然、文化、芸術などバラエティー豊かに紹介する絵本です。

このシリーズを読んで育った方が大人になられた今、それで得たさまざまなのことをきっかけに知識や興味を広げることができたと話してくださいます。

1976年、加古がちょうど50歳のときに刊行されたこの本のあとがきをどうぞ。

あとがき ーおうちの方や先生へ かこさとし

(引用はじめ)
こどものカレンダー3月のまきをおとどけします。
3月はすばらしい月です。

来月から新しく園や学校にはいる子がいるでしょう。また、一年上の級に進む子もいるでしょう。

ですから、この3月は、これから開かれる新しい場への期待の月といえます。

その新しい場に新たな考えをもって立ち向かうとき、子どもは大きな成長をとげます。知恵も力も考え深さも飛躍的にのびるものです。

3月を充実しておくるよう、どうぞ、努力なさり、新たな成果を喜びあえるようにご指導ください。

私事ですが、この3月末日で、私はもう一つ年をとることになります。ですから、私にとっても今月はとくべつな月なのです。

ではお健やかにお過ごしください。
(引用おわり)
本文は縦書きで、漢字には全てふりがながあります。

こう記した42年後の3月31日に加古は92歳の誕生日を迎え、その年の5月2日に永眠いたしました。

まもなく啓蟄。
虫たちも動き始める頃ですが、「ぐじぐじ ぐずぐずの よわむし」のケンちゃんは保育園に行くにもだだをこねて大変。ある日、一人で遊んでいて見つけた葉の裏についていた毛虫を内緒で育てます。

一方、幼稚園に通うトンちゃんはすぐにべそをかいたり、しくしくする、なきむしです。一人で泣こうと思って垣根にやってきて青虫を見つけ、家の植木鉢に隠して育てはじめました。ところがお母さんに見つかって、捨ててくるようにいわれ、泣きながら捨て場所を探していると、虫の研究をしているおじいさん先生に出会いました。

おじいさん先生に色々教えてもらい、トンちゃんもケンちゃんもすっかり泣き虫や弱虫を卒業します。
こんなあらすじの『よわむしケンとなきむしトン』のあとがきをご紹介します。

あとがき

かこさとし

(引用はじめ)
幼稚園や保育園にかよっている子どもたちは、まだちいさいので、いろいろな経験を知らず、試練にも会っていないものです。ですから、まわりの大きくてこわいものや、はじめての得体のしれないものに出会うと、おどおどし、内気なひっこみがちの、いじけた心になりやすいものです。

こうした幼い子は一方で、身近にあるふしぎなものやおかしなものについては、素直な心で接し、そこで、おもしろさやよろこびを得ると、もっとよく知ろうとねがい、もっとさぐりたいという意欲にかられます。こうした自分で興味をつのらせた事については、次第に自分の行動に自信と積極さ、責任をもつようになってゆきます。

そのすばらしい幼い心の動きを、あたたかく見守り、干渉をせず育んでいただきたいと念じます。
(引用おわり)