編集室より

2023/03/22

道具 今昔

子どもたちの身近なものを描いてきた加古の絵本。しかしそれが50年前のものですと、今や歴史的な意味を帯びてきて、昔を知り、今と比較することができるという、描かれた当初にはなかった要素が加わってきているものもあります。1970年に出版された2冊の本を開いてみます。

『ことばのべんきょう くまちゃんのいちにち』(福音館書店)はその題名のように言葉を覚え始めるお小さい子さん向けの本で、朝の歯磨きから夜寝るまでの場面に登場する身近な道具の名前が書かれています。

朝食の場面の「おひつ」は今や珍しいのではないでしょうか。

台所にあるマッチは、ガスコンロが自動点火になる以前は必需品で、商店が配る名入の粗品には、布巾やマッチが多くありました。
おもしの石がのせられている樽は漬物か味噌が入っているのでしょうか。用途は同じでも、今では素材がプラスチックにとって変わられた、ざるやしゃもじ、ヘラなどが見受けられます。

『どうぐ』(福音館書店/瑞雲舎・下)にも同様のものが並んでいますし、文房具では竹の物差し、象牙か牛骨のヘラなどもあります。昭和のはじめには、今ではプラスチックがあたり前の歯ブラシが豚毛だり、歯磨きのチューブが薄い金属性だったり、台所にあるスポンジの代わりにヘチマやシュロのタワシが使われていました。

下の場面、左下にあるのはダイアル式の電話で右下に並ぶいくつかの四角いものは、初期のコンピューターです。
このような絵を見ながら、是非、今ある電気製品がなかった時代の物やプラスチックを使っていなかった頃のことを、お子さんと話題にして頂ければ幸いです。

最近は、おにぎらずというのもありますが、おにぎり、おむすび、いずれの名前にしても三角だったり丸だったり、俵形もありますね。呼び名や形については諸説ありますが、作ってくれた人の心を感じながら食べることが一番の美味しさかもしれません。

加古は「食べごと」と称して、食事には身体の健康を支える栄養面だけでなく、文化、行事や食事を共にする人との団欒、親しみなど心を豊かにする多くの要素があり非常に大切なものだと考えていました。その考えに基づいて作られた10冊のシリーズ「かこさとしのたべものえほん」(農文協・上)があります。

その第1巻『ご飯みそ汁 どんぶりめし』(上)では「おにぎりは、心をつつむ おむすびは、仲間をつくる」と題して、美味しそうなおにぎり・おむすびが描かれています。同シリーズ第5巻『いろいろ食事 春秋うまい』(下)では春の「野あそび、お花見、山あそび」のお弁当として、これまた種類豊富なおにぎり・おむすびが経木にのせられています。

作品の中に描かれているおにぎりはこちら、かまどでご飯を炊いておにぎり作りをする「だるまちゃんとてんじんちゃん」たちです。

中に入れるのは、それぞれの色つながりで、たくあん、青菜、梅干しと三つの味が楽しめるようで、海苔をつけるのは、くろてんじんちゃんです。だるまちゃんのこの表情は必見です。

『だるまちゃんとだいこくちゃん』では「だいこくちゃん」のこづつから、お餅やお団子と一緒におにぎりも出てきます。いいですね、こんなこづつがあったら!

そして『あかありちゃんのやまのぼり』(1988年偕成社)の山登りのお弁当にも大きなおにぎり登場です。

いろいろ見ていたら食べたくなってきました。さて、さて中に何を入れましょうか。。。

2023/03/13

太陽

まもなく春分の日です。
この日と秋分の日は昼間の時間と夜の時間が等しく、春分の日から夏至の日までは昼間の時間が長くなっていくわけですが、この太陽と地球の関係については、新装版 『かこさとしの地球のかがくえほん あさよる、なつふゆ ちきゅうはまわる』(2022年農文協・上)や『こどもの行事 しぜんと生活3月のまき』(2012年小峰書店・下)で、わかりやすい図入りで説明しています。

太陽そのものについては、『大きな大きな世界』(1996年偕成社・下)にその大きさについて、

太陽の一生や太陽光線については『宇宙』(1978年福音館書店・下)に詳しく描かれています。

『太陽と光しょくばいものがたり』(2010年偕成社)は太陽光を活用する「光触媒」を発見した藤嶋昭先生の発見とその内容についてですが、表紙にある太陽のまわりには、「ひかり」に関係するようなさまざまな言葉が降り注ぐように書かれていて、言葉遊びの本なのかと思ってしまうようなユニークな絵が目を引く科学絵本です。

お話の本に描かれている太陽には、目鼻があって大きな口で笑っているものが描かれていることが多いようです。

『はれのひのはなし』(1997年小峰書店)は、晴れのいちにち、外遊びをするこどもたちの頭上にはニコニコ太陽が全場面に描かれ、影が朝とは反対側にできる日暮れまで、遊ぶこどもたちを見守っています。

『わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん』(1973年偕成社)ではアクマからサンザンに嫌がらせを受けた人々が最後に平和的な大逆襲をする終盤の場面はこうです。
(引用はじめ)
おひさまは キラキラ グルグル まわりだし、
あたりの くうきは、ぶるぶる びゅんびゅん
なりました。
(引用おわり)

この満面の笑みの「おひさま」に象徴されるような晴れやかな結末となります。

このような太陽の描き方を加古はこどもたちから教わったと話しておりました。

1950年代、川崎セツルメントの活動でこどもたちに絵を描くことを指導していた際、子どもたちが様々におひさまを描くのを見て大変興味を持ちそれを集めて大切に保存していました。

そんなこどもたちの描いたおひさまを模写して、編集、印刷を任されていたガリ版冊子「紙芝居研究会1968年1月号」の表紙を飾っているのを『絵本への道』(福音館書店・下)の裏表紙に見ることができます。

画面では見えませんが、ガリ版刷りのものには「絵は川崎セツルメントの子どもたちがかいた太陽の画」と説明があり、子どもたちの絵では色は、赤や黄、オレンジ色等で目鼻の入れ方、光線描き方にも個性があるのがわかります。

日差しが日に日に強くなってきましたが、今のこどもたちはどんなふうに太陽を描くのでしょうか。

『こどものカレンダー』は各月ごとの12巻からなるシリーズで、日めくりカレンダーのように、毎日1見開きにその日にまつわる出来事の紹介や、季節の行事、自然、文化、芸術などバラエティー豊かに紹介する絵本です。

このシリーズを読んで育った方が大人になられた今、それで得たさまざまなのことをきっかけに知識や興味を広げることができたと話してくださいます。

1976年、加古がちょうど50歳のときに刊行されたこの本のあとがきをどうぞ。

あとがき ーおうちの方や先生へ かこさとし

(引用はじめ)
こどものカレンダー3月のまきをおとどけします。
3月はすばらしい月です。

来月から新しく園や学校にはいる子がいるでしょう。また、一年上の級に進む子もいるでしょう。

ですから、この3月は、これから開かれる新しい場への期待の月といえます。

その新しい場に新たな考えをもって立ち向かうとき、子どもは大きな成長をとげます。知恵も力も考え深さも飛躍的にのびるものです。

3月を充実しておくるよう、どうぞ、努力なさり、新たな成果を喜びあえるようにご指導ください。

私事ですが、この3月末日で、私はもう一つ年をとることになります。ですから、私にとっても今月はとくべつな月なのです。

ではお健やかにお過ごしください。
(引用おわり)
本文は縦書きで、漢字には全てふりがながあります。

こう記した42年後の3月31日に加古は92歳の誕生日を迎え、その年の5月2日に永眠いたしました。

3月11日は忘れてはならない日ですが、『世界の化学者12か月』(2016年偕成社)で紹介されている二人の化学者にとっても3月11日は関係の強い日でした。

この本の表紙中央には紀元前ギリシャの三人の肖像画があります。天文数学に優れ万物は水から生まれ、水にかえると考えたタレス、科学者デモクリトス、そしてプラトンの弟子でアレキサンダー大王の師アリストテレスです。

表紙の三人が六角形の中に描かれていることには理由があります。この亀の子あるいは亀の甲のような形は「カメノコ」と呼ばれ「化学を代表するシンボルマークとして」使われていて、そのきっかけとなったのがドイツの化学者ケクレ(1829−1896)でした。

「1865年、6個の炭素と6個の水素からできている、ベンゼンの構造式を考え出し、3月11日、学会に報告しました。」この式は「とても便利でよい表しかたなので、多くの人につかわれるようになり」100年後の1965年3月11日、「ベンゼン祭」がベルリンで盛大におこなわれました。

ケクレの栄光の影でケクレよりも早く「炭素結合についての考えを発表しようとし」たイギリスのクーパー(1831−1892)は、研究地フランスの教授にそれを許されず、失意のうちに病み、1892年3月11日に「かなしい一生を終えました。」クーパーの研究成果は「死後50年たって、ケクレの弟子アンシュッツによって再発見された」と、「3月の化学のできごと 失意と栄光を秘めたベンゼン祭」と言う見出しで紹介されています。

何を隠そう、加古が化学会社に勤務していた時には、このベンゼン式が並ぶ実験研究をしていました。それがどんなものなのか、筆者には、幼かった当時も現在も全くわからないのですが、加古が絵本をかき始めた頃、出版社の方がベンゼン式の並ぶ書類や本が加古の本棚にあるのを目にしたのが科学絵本の執筆を依頼するきっかけになったと聞きました。

ちなみにクーパーの誕生日、3月31日は加古の誕生日と同じ日です。そんなことを想いながらこのページを執筆していたのでしょうか。是非、本書をご覧ください。

尚、東日本大震災に関連した忘れられない逸話は当サイトの以下にあります。

311

まもなく啓蟄。
虫たちも動き始める頃ですが、「ぐじぐじ ぐずぐずの よわむし」のケンちゃんは保育園に行くにもだだをこねて大変。ある日、一人で遊んでいて見つけた葉の裏についていた毛虫を内緒で育てます。

一方、幼稚園に通うトンちゃんはすぐにべそをかいたり、しくしくする、なきむしです。一人で泣こうと思って垣根にやってきて青虫を見つけ、家の植木鉢に隠して育てはじめました。ところがお母さんに見つかって、捨ててくるようにいわれ、泣きながら捨て場所を探していると、虫の研究をしているおじいさん先生に出会いました。

おじいさん先生に色々教えてもらい、トンちゃんもケンちゃんもすっかり泣き虫や弱虫を卒業します。
こんなあらすじの『よわむしケンとなきむしトン』のあとがきをご紹介します。

あとがき

かこさとし

(引用はじめ)
幼稚園や保育園にかよっている子どもたちは、まだちいさいので、いろいろな経験を知らず、試練にも会っていないものです。ですから、まわりの大きくてこわいものや、はじめての得体のしれないものに出会うと、おどおどし、内気なひっこみがちの、いじけた心になりやすいものです。

こうした幼い子は一方で、身近にあるふしぎなものやおかしなものについては、素直な心で接し、そこで、おもしろさやよろこびを得ると、もっとよく知ろうとねがい、もっとさぐりたいという意欲にかられます。こうした自分で興味をつのらせた事については、次第に自分の行動に自信と積極さ、責任をもつようになってゆきます。

そのすばらしい幼い心の動きを、あたたかく見守り、干渉をせず育んでいただきたいと念じます。
(引用おわり)

子どもたちの成長にとって、遊びはなくてはならないものであると、加古はさまざまの機会に伝えその大切さを詳細に述べています。

大人向けの著作では、『未来のだるまちゃんへ』の姉妹編『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(いずれも文春文庫)や、『伝承遊び考』四巻(小峰書店)等がありますが、『日本の子どもの遊び 上・下』の二巻(1979・1980年青木書店)は特に教育関係者に向け、様々な遊びが子どもの発達に果たしてきた重要な役割を平易に解き明かし、教科との関連にも触れて、広い視野に立つ具体的な提案を盛り込んだ渾身の著作です。

いっぽう、子どもには言葉で説くのではなく絵本でその楽しさを自ら体験、発展させることを願って多くの本を執筆しています。

非常に小さいお子さん向けの『あそびずかん』4巻(小峰書店)や『かこさとしあそびの本』全5冊(復刊ドットコム)もありますし、『あそびの大宇宙』『あそびの大惑星』『あそびの大星雲』はそれぞれ10巻ずつのシリーズです。

今回は『あそびの大惑星1 たいこドン ふえピッピのあそび』(1991年農文協)のあとがきをご紹介します。

ときめきひびく 生命のために

(引用はじめ)
あそびの大惑星シリーズの第1冊目は音、声、楽器や音響合唱などの巻です。将来カラオケ族やCDマニアにするためではありません。もちろん落着きのないニギヤカ人や静かさを騒音爆音でかき乱すヤカマシ子どもの手伝けをするのではありません。声を出す事や音に感じる事は、心臓のときめきや呼吸のリズム、即ち生きている事と連っているからです。子どもという生命に輝く生物の為に、音や声をききあい、ひびきあう感覚世界のこのあそびの巻を送ります。
(引用おわり)

ギリシャ神話で知恵の象徴とされるフクロウは加古作品に早くから登場しています。探してみましょう。

手描き紙芝居『うさぎのターちゃん』(1953年)では、お友達がいなくて寂しいターちゃんが野原で見つけた卵を鶏のおばさんに頼んで孵してもらうと生まれてきたのはフクロウのブクちゃんでした。一緒に遊ぼうと約束したのですが、夜行性のブクちゃんは夜にならないと遊びに出てこないのでターちゃんはガッカリ、それでもお互いのことがわかってお友達になります。

紙芝居といえば、『ばんちゃんねずみとミミンガー』(1986年全国心身障害児福祉財団)のミミンガーというのはミミズクからの命名です。からだの小さい子ねずみばんちゃんにしてみれば、ミミンガーは天敵でもあり非常に大きくて怖く見えるのですが、年老いて目が悪くて困っていることを知り、ばんちゃんが助けてあげる物語です。

1995年には同じセリフで絵を描きかえ『バンちゃんの大ぼうけん』(上)と改題して前作同様、福祉関係の施設に寄贈されました。晩年、緑内障で視野が欠けていた加古自身の目が良くなったらという希望が託されているように思えてなりません。

生き物としてのフクロウの紹介は『地球』(1975年福音館書店)、秋の森、木のウロにいますし、『あそびずかん あきのまき』(上)にも。そしてコノハズク、アオバズクは『あそびずかんなつのまき』(下・いずれも2014年小峰書店)に掲載されています。

物語絵本では『パピプペポーおんがくかい』(2014年偕成社・下)の舞台上、トリノからの鳥のグループ合唱団にフクロウたちが並んでいます。

加古のデビュー作『だむのおじさんたち』(1959年、福音館/復刊ドットコム、下)にもフクロウの姿があります。

動物たちも寝ている秋の夜、飯場にはあかりがともりおじさんたちは交代で働きますが、それを見ているフクロウが木の枝にいます。働く人間の姿と自然を詩情豊かに描き出すこの場面は、秋が大好きだった加古が気に入っていた場面です。

なんと言っても忘られないのは『どろぼうがっこう』(1973年)とその続きのお話『どろぼうがっこう ぜんいんだつごく』『どろぼうがっこうだいうんどうかい』(いずれも2014年偕成社)に登場する金と銀の目を持つへんなミミズクです。世にも不思議などろぼうの物語は、この変わった風貌のミミズクが語ったという設定で、山また山の奥深く、遠い地の幻のお話の雰囲気が一層高まります。

実は、このフクロウは元になった紙芝居には登場しないのですが、どろぼうのお話、どろぼうの仕方を学ぶ学校ということで、教育上よろしくない、というお叱りの声を危惧して絵本にするときに、語部として登場させたのです。
それぞれのお話の冒頭と最後に姿がありますが、『どろぼうがっこうぜんいんだつごく』では校長先生の風邪がうつってしまったり、『だいうんどうかい』では年老いたミミズクが咳き込んで終わるあたり、なんだか現実味を帯びています。

もう一作、『きんいろきつねのきんたちゃん』(下)をご覧ください。金と銀の目に見えるようなこのフクロウ、本文のどこにも登場しないのにここにいます。加古が強い思いを込めた物語ですが、残念ながらこの絵のついた絵本は絶版になっています。

森林開発と毛皮取りのため母を奪われたコギツネが、人間に飼われその世界で暮らすことになりますが、ある日、ひょんなことで変わり果てた姿の母キツネに再会し無我夢中で森に逃げ帰ります。

「つきの きれいな よる、あおい山の ふもと」で泣いているちいさなきつねが「つきのひかりに きらりと きんいろに ひかる」のを見守っていたのは、フクロウでした。

『おおきいちょうちん ちいさいちょうちん』(1976年福音館書店)

ちょとかわったユニーク科学絵本をご紹介する2回目は、そのユニークさゆえにロングセラーの『おおきいちょうちん ちいさいちょうちん』(1976年福音館書店)です。



ユニークなところ その1) 文章がない

構図を反転させたような表紙と裏表紙は、提灯だらけ、おまけにいたずらそうな小坊主さん、とぼけた雰囲気が漂うタヌキ、真似をしているようにも見えるサル、なんだか笑いが出てくる絵です。

題名には『おおきいちょうちん ちいさいちょうちん』とありますが、大きいもの、小さいものの物尽くしだけではないようです。副題には、ゆかいな「反対」ことばとあり、中を見るとおおきい・ちいさい、ながい・みじかい、おもい・かるい、といった26組の反対語が各ページの上にあるのですが、文章は一文もありません。

ユニークなところ その2) 数字や単位がでてこない

大小や長短、重軽と反対の状態を比べるのなら、長さや重さの単位や数字が登場しそうですが、それも見当たりません。この反対の状態を小さな子どもたちが理解するのを手助けするのは文でも言葉による説明でも数字でもないのです。ではどうやってするのでしょうか。

ユニークなところ その3) 絵で伝える

絵です。しかも「ゆかいな」絵によって面白く伝えています。大人が見ても思わず笑ってしまうようなひねりのあるものも含み、確かに見ていて「ゆかい」で何と何を比較しているのか、何が反対なのかが、よくわかります。

この本は説明文もない、数字もないけれど、絵の力で言葉が意味する、比べるという科学的視点を見事に表現している、れっきとした科学絵本なのです。

ちなみにこの本の題名は「大きい提灯 小さい提灯」という遊びから取られたものだと加古から聞きました。
どんな遊びかというと、親役の人が「大きい提灯!」と声をかけたら、他の人はその反対の「小さい提灯」の形を両手で作ります。その反対に親が「小さい提灯!」といったら、「大きい提灯」の形を両腕を上げて作ります。つい、言葉につられて、その言葉通りの形を作ったら負け。どこでも、いつでも二人でも大勢でも遊べる愉快な遊びです。

文もない画面ですが、絵の中に書かれているわずかな文字には加古のサービス精神がいきています。サイン代わりの「さ」はタヌキの半纏の背中や提灯に、表紙にある大きな提灯にかかれている「と」「も」はこの本が「かがくのとも」として出版されたからです。最初の場面、山門に吊るされた大きな提灯の「科朋山」は科学の「科」と友、友人を意味する「朋」の組み合わせで、前者と同じ意図があります。

そして、後見返しには、ちょうちんあんこうも登場する徹底ぶりで、その不思議な生態を絵でさりげなく表現しています。どうぞ、ごゆっくり、ゆかいに隅々までお楽しみください。

  『いろいろおにあそび』(1999年福音館書店)

2回に分けて2冊のちょとかわったユニークな科学絵本をご紹介します。
今回は『いろいろおにあそび』(1999年福音館書店)についてです。

ユニークなところ その1:吹き出し

吹き出しの中に子どもの言葉が書いてあって、でもこれは漫画ではありません。れっきとした科学絵本で、しかも本文ではなく表紙、正確にいえば裏表紙です。

表紙はこちら。
『いろいろおにあそび』(1999年福音館書店)とあります。

「いろいろ」といういのは「さまざまな」という意味で、タッチおに、つながりおに、はしらおに、しまおに、くつとりおに、くつかくしといった多種類の鬼ごっこが紹介されている本なのです。そして表紙と裏表紙では「いろおに」の実況中継です。

ユニークなところ その 2:色合い

さまざまな意味とはいえ「いろいろ」とうたい、「いろおに」が表紙や裏表紙に登場し、フルカラーの本なのに、使われているのは非常に色を抑えた画面になっています。「いろおに」でも「黒い」ものに触っていれば鬼から逃れられるという設定で、赤は使われずカラフルな絵本とは異なる雰囲気ですが、これは「しまおに」などを説明する際、地面に描く線を際立たせるための工夫です。

ユニークなところ その 3:鬼のツノ

大勢の子どもの中で誰が鬼なのか、はっきりさせるために鬼になっているこどもの頭に点線でツノを描いています。最後の場面では泥だらけの足で家にあがろうとした、つねちゃんを叱るお母さんにもツノが生えているというオチまであります。

変わったところがたくさんあるこの絵本、これも科学絵本なのかと問うたところ、加古は嬉しそうにコックリとうなずいたのでした。7人の子どもとかっちゃんの犬、クロが遊ぶ鬼ごっこの数々。みなさんも是非お楽しみください。