編集室より
こんな泥だらけはもちろん困ります。
しかしながら泥というのは一朝一夕でできるものではなく、実は大変貴重なものなのです。『地球』には、木の葉や水草や野原にしげった草が枯れて、くさって何百年も経つと茶色のぼろぼろのかたまり、土になると説明があり、巻末の解説にはこの場面は「地下10m、腐食、土泥」に関してとあります。
科学絵本ではありませんが、『あおいめ くろいめ ちゃいろのめ』(1972年偕成社)では3人のことどもが泥だんごつくりをして遊んでいるとミミズが出てきて泣きだす子がいて遊びは中断。ところがミミズは良質の泥を作るのに実はなくてはならない存在なのです。
そんな豊かな泥、土壌についての成り立ちやその大切さを丁寧に説明しているのが『かこさとし 大自然のふしぎえほん 大地のめぐみ 土の力大作戦』(下・2003年小峰書店)です。
加古は化学会社の社員として肥料の研究をしていた時期がありましたので、その長短所をよく知り尽くしていました。著作を主にするようになってからは、人口爆発に伴う食料危機や環境破壊などについて、科学者としての見識を持って絵本でお伝えしてきましたが、『大地のめぐみ 土の力大作戦』はまさにその代表とも言えるものです。そのあとがきには「小さな日本だけのことではなく、迫りくる地球規模の危機と未来の問題に、関心をもってほしいとの願いから」とあります。
「大作戦」とはただ人目を引くための言葉ではなく、まさに大勢の人が意識を持って取り組まなければ解決できないものであるから、今こそ実行に移さなければという強い気持ちを込めての題名です。
同じシリーズの中にある『モグラのもんだい モグラのもんく』(2001年小峰書店)もモグラを主人公にしつつ土壌の大切さを訴えています。ちなみにモグラは土中にすむ最大の哺乳類です。
食物を育てることができるような豊かな土壌は「地球をリンゴだとすると、皮のあつさにもたりない、うすいところ」であると『大地のめぐみ⋯』の「8.どんどんへってゆく大地」にある通りなのです。
大雨で土砂が流されるのを見るたびに大切な大地が削りとられ、かけがいのない宝物が失われるようで胸がいたみます。今こそ大作戦を繰り広げなければならないと語る著者の言葉に是非耳を傾けていただければと思います。
太陽が照りつける夏、海水浴場がある藤沢市にちなみ海に関係する絵や夏らしい一枚を展示しています。
尚、本庁舎1階には『だるまちゃんとキジムナちゃん』を展示しています。
お近くにお越しの際は是非ご覧ください。
藤沢市内4図書館に夏向け複製画展示中
1970(昭和45)年に出版された『ことばのべんきょう』シリーズ(福音館書店)は言葉を覚え始めたお子さん向けの軽量で持ちやすい小さな4冊の絵本です。
1970年といえば小さいお子さんを持つご両親が生まれる前、おじいちゃんおばあちゃんの世代にむしろ近い頃でしょうか。若い方々もあまり知らないものが登場していて親子で言葉の勉強になると聞いたのは随分前のことです。
つまり、今はなき昭和時代の懐かしい?あるいは見たこともない物が登場しているのです。
例えば、シリーズ最初の『くまちゃんのいちにち』朝の場面、牛乳受けがあります。筆者が幼かった昭和30年代、まだ暗いうちから瓶詰めの牛乳を自転車で配達する音が聞こえてきて目が覚めたものでした。
下駄箱という言葉は健在でも、お家の下駄箱に下駄が入っているのはきっと稀なことでしょう。
お父さんの身支度の様子、ネクタイピンをする方は、今はほとんどいらっしゃいませんね。ちり紙は、今のようなテイッシュペーパーが普及する前は半紙の半分ほどの大きさのものが束になって売っていました。必要な分を取り出し4つ折にしてポケットに入れたものです。
炊き上がったごはんをおひつに入れておく、ということもほとんどなくなってしまいました⋯
黒いダイアル式の電話を使ったことがあるのは昭和生まれでしょうか。スーパーマーケットのレジの風景も変わりました。旅先でお土産としてペナントを買ってくるのが当時の流行でした。ご当地ものを集めるのに似ています。そして記念写真を貼ったアルバム。今はすっかりデジタルになってしまったのでしょうか。
出版から半世紀の時間が過ぎ、昭和時代の衣食住の言葉を知りたい時にもお役にたつ絵本なのかもしれません。
七夕は加古にとって特別なものでした。
『だるまちゃんの思い出 ー遊びの四季ー』に書かれているように、ふるさと武生(たけふ)で過ごした幼年時代の七夕が「民族的な「棚機(たなばた)」即ち織物を織る神や川の神に、はたおりの技術や習字や学問を上達することを祈願する色彩が色濃く流れていた」ことと関係しているようです。
長い歴史を持つ武生(たけふ)では、昭和のはじめの頃、墨で書いた短冊を笹につけるコヨリを一家総出で作って「6日につるし、7日の夕方にはその竹を持って大川の土手に行」き、土手の中ほどの焚き火に短冊をいれ「竹の頂上に1つだけ残した小さな提灯に、そのたき火から灯をもらってともす」⋯七夕の夕べの様子が克明に記されています。
こんな思い出深いこども時代を過ごしたためか、加古はこどもたちに飾りの作り方を教えたり出来上がったものを一緒に飾ったりしていました。七夕前は梅雨の時期ということもあり、筆者も家の中で延々と折り紙で飾りを作り、大きな柔らかい紙で「網」をこしらえたものです。
加古が亡くなる前の年の、つまり結果としては最後の七夕の飾りが出来上がり記念撮影をしようと思っていたところ帯状疱疹の痛みがでて、それができなかったのですが、加古にとっては七夕を迎えるのは新年を迎えるのと同じような気持ちだったように見受けられました。孫と最初に迎えた七夕、2回目の七夕⋯といった記録も残してあるほどです。
ですから七夕についてはあそびの本、星の本、そして行事の本でも取り上げています。『あそびずかん なつのまき』(2014年小峰書店)では七夕が現在のようになるまでには、日本の古来の「たなばたつめ」のならわし、中国のおりひめ、ひこぼしのお話や、「きっこうでん」のまつり、そして日本のお盆のお供えなどの「いくつものおはなしやいいつたえがまじっ」て現在に至ることが絵でわかりやすく示しています。
さらに、『なつのほし』(1985年偕成社)では上の絵に加え、下のあるように織姫星(ベガ)と彦星(アルタイル)の実際の距離などについても解説があります。
七夕の日に晴れを願う地域、逆に雨を願うところがあるのは上記のような様々な要素のどの部分に重きを置いているかによって異なるようです。皆様のお住まいのところではいかがでしょうか。
当サイト2018年「七夕」もどうぞお読みください。
七夕
福音館の月刊誌「母の友」に登場する「一日一話」は、1953年から続いている大好評の特集だそうです。そんな中から「今の子どもたちに喜んでもらえるお話」を集めた第2弾が刊行されました。
全部で三十話を収録。加古里子(かこさとし)の「ポンちゃんのポンポ」もあります。もちろんこのお話は『くもとり山のイノシシびょういん』の第一話でもあります。
美味しいものが出てきたり、おやすみ前にもピッタリな、大人も子どもも楽しめるお話ばかりです。どうぞ楽しいひと時をお過ごしください。
三つ巴で思い浮かぶのは瓦や太鼓の模様でしょうか。
じゃんけんは、グー、チョキ、パーの3つだからこそ面白いのですが、物語の中では敵がさらにもう1人現れて3者で争うというのは、スリル満点の構図となります。
加古作品の中にも、三つ巴の緊張状態の末、あっと驚く結末を迎えるお話があります。
昔話『かっぱとてんぐとかみなりどん』。この3者が、「すみやきとうべい」に無理難題を言いつけますが、息子の「とうへい」はまんまとこの3人を一度に懲らしめてしまい、めでたしめでたしとなります。
ちなみにこの作品に出てくる「かみなりどん」の太鼓はご覧のように三つ巴ではなくニ巴です。
子どもの機智でピンチを切り抜けるというのは『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』にもありますが、本作はダイナミックでなんとも愉快でスカッとするお話しです。
昔話らしいのんびりした雰囲気を伝える味わいある絵のタッチも見どころです。
6月14日から開催の軽井沢絵本の森美術館「かこさとし「絵本へのまなざし」展で一場面のみですが展示予定です。
本作のあとがきについては以下(2016年の当サイトの記事)にあります。
あとがき
偕成社より2023年秋から2024年春にかけて全10巻が出版された『かこさとし童話集』。その扉に使われたフードペーパーという廃棄する野菜を漉き込んだ和紙を制作した越前市の五十嵐製紙さんに御礼にうかがいました。その時の様子が、こしの都ネットワーク(ケーブルテレビ)で放映されました。
越前市和紙の里訪問 フードペーパー
絵本の題字は、デザイナーさんや装丁の方がその字体や色をデザインすることが多いようですが、加古は題字を自らかいたりデザインをしたりしていました。
小峰書店から出版されているお天気の本5冊(1997〜98年)は、その良い例です。
タイトルの文字に雨、かぜ、曇りをイメージして線が入っています。
下右側『はれのひのおはなし』は題名の文字が光っているように見えますが、これも線を入れてそのように見えるようにしているからです。左の『ゆきのひのおはなし』では雪がたくさん降っています。
下の2冊の題字は加古の書き文字で『あさですよ』は豆をイメージした◯が字にも表紙の下部にも描かれています。『あかですよ』の方は海の中のタコのお話なので、同じ◯でも泡のイメージです。
『まさかりどんがさあたいへん』(1984/1996年小峰書店)は、大木を切り倒してピアノを作るまでを描いていますが完成までには数多くの道具を使います。電動ではなく手で切り出したり彫ったり。そのイメージとこの手書き文字はピッタリです。
『とこちゃんはどこ』(1970年福音館書店)の題字も手がきのシンプルなものですが、黒でも茶色でもなく白抜きで一部のみ彩色されていて表紙全体とのバランスも良く、軽快なイメージで洒落ています。
様々なフォントがある現在にあって、こういった手がきの題字がかえって新鮮に思えるのは筆者だけでしょうか。
他の作品に見られる手書き文字については(2018年のご紹介ですが)以下をどうぞ。
手書き文字