編集室より

2021/10/23

お天気の本

お天気は子どもたちにとっても大きな関心ごと。雨では外遊びはできないし、雪は雪国以外では待望のものでしょう。『くもりのひのおはなし』(1998年小峰書店)で描かれているように、靴などのはきものを飛ばして落ちた向きでお天気占いとしたことが誰にでもあるのではないでしょうか。

このシリーズ(1997〜98年小峰書店)では、晴れ、曇り、雨、風、そして雪の5つのお話がありますので、空模様に合わせて読み分けるのも楽しそうですし、明日の天気を予想して選ぶのも面白いかもしれません。

どのお話も、さあちゃん、ゆうちゃんのおうちから始まり、この二人の子どもと動物たちが、それぞれの天気にふさわしい遊びを楽しみます。きっと読み終わったら同じ遊びをしたくなります。

内容に加えタイトルがかこの手描きであること、前・後ろの見返しも本文同様のしっかりとした絵があることも楽しみな見どころです。

実は、さあちゃんゆうちゃんのおうちが越前市の武生(たけふ)駅前にある屋内施設、「てんぐちゃん広場」に再現されています。どなたでもご自由に入場できますが、お子さんの年齢により入場できるエリアを分けていますのでご協力お願い致します。

「てんぐちゃん広場」については以下で写真とともに紹介されています。

てんぐちゃん広場

ずいぶんセンセーショナルな題名ですが、内容もかなり、切り込んだものです。
この本が出版されたのは、1986(昭和61)年、まだテレビのアンテナが家々の屋根に立っていた時代です。

野球の試合や劇場でのコンサートを生中継していたある晩のこと、テレビの画像が突然消えてしまいます。事故でもテロでも、戦争でもなく、原因はスポンサーの故意によるものでした。「とつぜん みえなくなった」ことでかえって高視聴率、コマーシャル会社は大成功と大喜び。。。

現実にこのようなことが起きるはずはないのかもしれませんが、何故か、さもありなんと思ってしまいます。
当時と比べたら、2021年の私たちは視聴率やスポンサーのことなどをずいぶん知っているようですが、かこのあとがきをお読みください。

あとがき

(引用はじめ)
今、日本ではテレビを見ている人がとてもたくさんいます。そして、人気のある番組や評判の出演者については、人々の話題になりますが、そのテレビがどうやって作られ、組み立てられるのかは、あまり知られていません。特に、テレビ局や会社で働く人たちばかりでなく、視聴率とかスポンサーとか、背後にある大きな因子、経済的側面については、ほとんど関心がはらわれていないようです。テレビという華やかな目に映るものだけでなく、画面にうつらないけれど、テレビジョンというものの一番重要なことに注意を向けてほしいと思っているところです。
かこさとし
(引用おわり)

このあとがきが書かれた頃の日本では、カラーテレビが複数台ある家庭が半数以上ありました。
テレビを見ない世代も出現している現在、テレビジョンではなくスマホやパソコンの画面が突然消えたらどうなるのでしょうか。。。

『秋』(2021年講談社)のように一つの季節の出来事を一冊の本にしたものもありますが、かこは四季折々の風景を描き込むことで時の流れを表現することが多々あります。

そのわかりやすい例が『出発進行!トロッコ列車』(2016年偕成社)の表紙裏表紙です。この絵本は千葉県を走る小湊鐵道トロッコ列車を題材にしてその沿線の歴史や文化、人々の暮らしや自然を描いています。

春の里見駅から出発するトロッコ列車の旅は菜の花、桜に彩られ紫陽花の咲く田園風景が広がる3つ目駅月崎は、蛍のとびかうところです。光と風を受けて走り、やがて彼岸花が線路脇に見えてトンネルを過ぎると黄色く色づくイチョウの大木がある上総大久保駅、そして終点養老渓谷駅へ向かいます。四季折々の美味しい食べ物も登場します。

意外に思われるかもしれませんが、科学絵本であってもそうなのです。『地球』(1975年福音館書店)の解説で、かこは次のように述べています。
(引用はじめ)
。。。その内容の大きな流れを、一つは時間の推移とともに見られる四季の色どりと、一つは地上、地表、地下へとのびてゆく垂直の変化の両者を、交錯させながら進めるように設計しました。
その上、欲張りにも、植物、昆虫、動物、人間等の地球にすむいきものたちを、仲間としてえがきたかったため、どうしても四季を一回めぐるだけではもりこめなくて、本の中ではニ回、すなわちこの本を読むと二年としをとるというか利口になる(?)というほうほうをとってあります。
(引用おわり)

そして50ページにわたる場面の季節と描く範囲(地上、地下の深さ)を表にして掲載する徹底ぶりです。このような季節感あふれる場面がオマージュとして『みずとはなんじゃ?』(2018年小峰書店)に季節を変えて登場するのは、鈴木まもるさんがこの『地球』の場面の中で季節の風や光を感じながら遊んでいたからに違いありません。

下の画面、右側が『地球』の春の野原でツバナ(チガヤ)を手にする子。左側は『みずとはなんじゃ?』で、桜の木は花から新緑に変わっていますが、チガヤを摘む子どもが描かれています。

『地下鉄のできるまで』(1987年福音館書店)でも地下鉄工事の進む様子を地中、そして地表の人々の暮らしと季節をさりげなく盛り込んでいるのがかこさとしらしいところです。

起工式の紅白の幕の側には満開の桜、いよいよ工事が始まり土留めをする作業は新録の頃、緑が色濃くなると地中にはコンクリートのトンネルが出来上がり、木々が色づくとトンネルの中にはレールが敷かれます。

歳末大売出しの垂れ幕がデパートにかかり、それからまた季節は巡って梅雨の大雨、入道雲の夏、やがて雪も降り三たび巡ってきた春にようやく開通となります。工事関係者だけでなく、虫取りや凧揚げ、野球をする子どもも描かれています。

『ねんねしたおばあちゃん』(2005年ポプラ社)は「おばあちゃん」が「タミエちゃん」というお孫ちゃんを赤ちゃんの時から、働くお母さんの代わりに世話をする物語で、身近な植物を添えて季節のうつろいを表現しています。

タミちゃんが生まれたのは床の間に梅が飾られている早春のこと。桜、そしてチューリップが咲く頃お母さんは仕事に復帰、おばあちゃんの孫守りが本格的に始まります。けれど、紫陽花の頃には、おばあちゃんが疲れてうたたねをしてしまったりします。パンジー、シクラメン、ばら、コスモス、ケイトウが季節をしらせ、タミエちゃんが3歳になった菊の頃、おばあちゃんは二度と目を覚ますことはありませんでした。

育児と老人問題という重いテーマですがこういった小さな花々がその重々しさを和らげ人の心の優しさを伝えているようです。

『ねんねしたおばあちゃん』(2005年ポプラ社)

小さな子どもは、だれが世話するのか。コロナ禍にあって、保育園が休園になってしまったり、家庭の中で感染がおきてしまったり、保育に関しても今までとは違う状況が出現しました。

この本が最初に出版されたのは1980(昭和55)年で、周囲の人々との間でおこる子どもの心の動きをとり上げた、当時としてもユニークな「こころのほん」シリーズの第2巻にあたります。

生まれたばかりのタミエちゃんの世話をするおばあちゃんの物語で、成長して活発になっタミエちゃんは、おばあちゃんのてをふりきって遊びに出かけようと家を飛び出した途端に交通事故に合います。おばあちゃんの応急処置の甲斐もあって、タミエちゃんの命に別状はなく、足の怪我の入院から戻ってきたある日、突然おばあちゃんが倒れてしまいます。

「保育のあり方が多様になった今なお、私たちに強く訴えかける」と静岡新聞書評欄で紹介されました。

2021/10/03

遠足

コロナ禍で普段の授業もままならない中、運動会や遠足が中止されてお子さんたちの学校生活が制限されていることが気がかりです。

かこさとしが幼稚園に入ってすぐのことですから今から90年も前のこと、遠足で歩いてむかったのは隣町の鯖江の練兵場でした。空砲とはいえ、射撃の訓練を目の前で見てその音の大きさに驚いたと『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年文春文庫)にあります。

遠足が題名に入っている『あかいありのぼうけんえんそく』(2014年偕成社)は、『あかいありとくろいあり』(1973年偕成社)の続編。といっても40年ぶりの続きのお話で、あかあり小学校の1年生から6年生までみんな一緒に「ぼたもちやま」に遠足に出かけます。PTAも参加して道具や荷物を準備、万一に備えます。途中、あかありを狙う危険な生き物に遭遇しますが万端の準備が功をそうして、無事に楽しい遠足が終わります。

無事に終わらなかった遠足といえば、そう! あの遠足、『どろぼうがっこう』(1973年偕成社)です。とっぷり日が暮れて、どろぼうがっこうの生徒たちは「たのしい えんそくに でかけました。」そんな場面が夜になって実際に現れる場所があるのです。

2021年9月25日にお披露目された越前市武生中央公園に新たにできた「まさかりどんの館」。館というのですから、それはそれは大きな建物で、その壁面に夜になると出現する怪しい人影。是非、闇にまぎれて忍び足で現場をご確認ください。

以下は現場の状況です。。。

まさかりどんの館に現れるのは

秋はお月見があって夜空を見上げる機会がふえますが、星を見るには月のない晴れた夜が最適です。美しいアンドロメダ星雲の表紙のこの本は、前扉には秋の星図、本文では月の写真、カシオペア座の見つけ方、アンドロメダ座やペルセウス座にまつわる物語もあります。
あとがきをどうぞ。

(引用はじめ)
わたしは中学生のころ、ねっしんに星の位置や名まえをおぼえりょうとしましts。それは、いずれもうすこし年上になったら、みんなせんそうにいくので、そのときにこまらないためでした。富士山麓で夜、軍事教練がおこなわれ、斥候(せっこう)にでたわたしがみちにまよわなかったのでは、カシオペアのおかげだったことをおぼえています。

みなさんは、そんなことのためではなく、もっとたのしい、もっとおおきい、もっとうつくしいものを知ったり、さぐったり、きわめるために、星を眺めたらり、星をしらべたりしていただきたいと、すてきな写真をとってくださった藤井旭(あきら)さんといっしょに、ねがっています。
(引用おわり)
漢字には全てふりがながあります。

『新版 科学者の目』(2019年童心社)

41人の業績、葛藤 簡潔に

静岡新聞のこどもかがく新聞は、科学に関する情報が満載です。[かがく図書館]コーナーで紹介されたこの本は、古今東西の科学者たち41人の科学者としての着眼点や研究方法、生き方などをわかりやすく深く解説する伝記です。物事をどう捉え、考えれば良いのか、あるいは生き方について考える時、この先人たちの歩んだ道は、こどもにも大人にとっても示唆に富んだものと言えるでしょう。

2021年10月3日まで東京都町田市民文学館ことばらんどで開催の「つながる・つながれ!のりものえほん展示」で、『地下鉄のできるまで』(1987年福音館書店)の表紙を含め5枚の複製画が初披露されています。
乗り物好きの皆様だけでなく、季節の変化やそれにともなう人々の暮らしも描きこまれ、機械以外のところにも見所があります。
この展示会には鈴木まもるさんの「ピン・ポン・バス』の絵など船や新幹線など乗り物がたくさんです。
10月3日まで、「お乗りの方はお急ぎくださ〜い。」

かこさとしは晩年、肩書を「絵本作家」でよろしいですかと聞かれると、作家というのは夏目漱石や芥川龍之介のような才能ある人たちのことで、自分はとてもそんな存在ではく「児童問題研究」をする者と言っておりました。

『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年文春文庫)は、久留島武彦文化賞と日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した『遊びの四季』(1975年じゃこめてい出版)を底本に、加古によるカラーの挿絵や写真、エッセイや解説を加えたものです。もともと挿絵がほぼ各ページにあり、優しい独特の独特のタッチが内容を一層わかりやすいものにしています。

書評を書いた松永裕衣子氏は、その受賞時のかこの肩書きは「子どものあそび研究家」であることを紹介しながら「ページを開けば、当時の子どもらの元気な姿が目に浮かび、読めば読むほど味わい深く、心にしみるエッセイ集である。」とし、かこが伝えたかったのは、ただの郷愁ではなく遊びの中で身につけ、心に刻んだものであると本書の意義を読み解いています。