『秋』(2021年講談社)のように一つの季節の出来事を一冊の本にしたものもありますが、かこは四季折々の風景を描き込むことで時の流れを表現することが多々あります。
そのわかりやすい例が『出発進行!トロッコ列車』(2016年偕成社)の表紙裏表紙です。この絵本は千葉県を走る小湊鐵道トロッコ列車を題材にしてその沿線の歴史や文化、人々の暮らしや自然を描いています。
春の里見駅から出発するトロッコ列車の旅は菜の花、桜に彩られ紫陽花の咲く田園風景が広がる3つ目駅月崎は、蛍のとびかうところです。光と風を受けて走り、やがて彼岸花が線路脇に見えてトンネルを過ぎると黄色く色づくイチョウの大木がある上総大久保駅、そして終点養老渓谷駅へ向かいます。四季折々の美味しい食べ物も登場します。
意外に思われるかもしれませんが、科学絵本であってもそうなのです。『地球』(1975年福音館書店)の解説で、かこは次のように述べています。
(引用はじめ)
。。。その内容の大きな流れを、一つは時間の推移とともに見られる四季の色どりと、一つは地上、地表、地下へとのびてゆく垂直の変化の両者を、交錯させながら進めるように設計しました。
その上、欲張りにも、植物、昆虫、動物、人間等の地球にすむいきものたちを、仲間としてえがきたかったため、どうしても四季を一回めぐるだけではもりこめなくて、本の中ではニ回、すなわちこの本を読むと二年としをとるというか利口になる(?)というほうほうをとってあります。
(引用おわり)
そして50ページにわたる場面の季節と描く範囲(地上、地下の深さ)を表にして掲載する徹底ぶりです。このような季節感あふれる場面がオマージュとして『みずとはなんじゃ?』(2018年小峰書店)に季節を変えて登場するのは、鈴木まもるさんがこの『地球』の場面の中で季節の風や光を感じながら遊んでいたからに違いありません。
下の画面、右側が『地球』の春の野原でツバナ(チガヤ)を手にする子。左側は『みずとはなんじゃ?』で、桜の木は花から新緑に変わっていますが、チガヤを摘む子どもが描かれています。
『地下鉄のできるまで』(1987年福音館書店)でも地下鉄工事の進む様子を地中、そして地表の人々の暮らしと季節をさりげなく盛り込んでいるのがかこさとしらしいところです。
起工式の紅白の幕の側には満開の桜、いよいよ工事が始まり土留めをする作業は新録の頃、緑が色濃くなると地中にはコンクリートのトンネルが出来上がり、木々が色づくとトンネルの中にはレールが敷かれます。
歳末大売出しの垂れ幕がデパートにかかり、それからまた季節は巡って梅雨の大雨、入道雲の夏、やがて雪も降り三たび巡ってきた春にようやく開通となります。工事関係者だけでなく、虫取りや凧揚げ、野球をする子どもも描かれています。
『ねんねしたおばあちゃん』(2005年ポプラ社)は「おばあちゃん」が「タミエちゃん」というお孫ちゃんを赤ちゃんの時から、働くお母さんの代わりに世話をする物語で、身近な植物を添えて季節のうつろいを表現しています。
タミちゃんが生まれたのは床の間に梅が飾られている早春のこと。桜、そしてチューリップが咲く頃お母さんは仕事に復帰、おばあちゃんの孫守りが本格的に始まります。けれど、紫陽花の頃には、おばあちゃんが疲れてうたたねをしてしまったりします。パンジー、シクラメン、ばら、コスモス、ケイトウが季節をしらせ、タミエちゃんが3歳になった菊の頃、おばあちゃんは二度と目を覚ますことはありませんでした。
育児と老人問題という重いテーマですがこういった小さな花々がその重々しさを和らげ人の心の優しさを伝えているようです。