編集室より

作品によせて

『おおきいちょうちん ちいさいちょうちん』(1976年福音館書店)

ちょとかわったユニーク科学絵本をご紹介する2回目は、そのユニークさゆえにロングセラーの『おおきいちょうちん ちいさいちょうちん』(1976年福音館書店)です。



ユニークなところ その1) 文章がない

構図を反転させたような表紙と裏表紙は、提灯だらけ、おまけにいたずらそうな小坊主さん、とぼけた雰囲気が漂うタヌキ、真似をしているようにも見えるサル、なんだか笑いが出てくる絵です。

題名には『おおきいちょうちん ちいさいちょうちん』とありますが、大きいもの、小さいものの物尽くしだけではないようです。副題には、ゆかいな「反対」ことばとあり、中を見るとおおきい・ちいさい、ながい・みじかい、おもい・かるい、といった26組の反対語が各ページの上にあるのですが、文章は一文もありません。

ユニークなところ その2) 数字や単位がでてこない

大小や長短、重軽と反対の状態を比べるのなら、長さや重さの単位や数字が登場しそうですが、それも見当たりません。この反対の状態を小さな子どもたちが理解するのを手助けするのは文でも言葉による説明でも数字でもないのです。ではどうやってするのでしょうか。

ユニークなところ その3) 絵で伝える

絵です。しかも「ゆかいな」絵によって面白く伝えています。大人が見ても思わず笑ってしまうようなひねりのあるものも含み、確かに見ていて「ゆかい」で何と何を比較しているのか、何が反対なのかが、よくわかります。

この本は説明文もない、数字もないけれど、絵の力で言葉が意味する、比べるという科学的視点を見事に表現している、れっきとした科学絵本なのです。

ちなみにこの本の題名は「大きい提灯 小さい提灯」という遊びから取られたものだと加古から聞きました。
どんな遊びかというと、親役の人が「大きい提灯!」と声をかけたら、他の人はその反対の「小さい提灯」の形を両手で作ります。その反対に親が「小さい提灯!」といったら、「大きい提灯」の形を両腕を上げて作ります。つい、言葉につられて、その言葉通りの形を作ったら負け。どこでも、いつでも二人でも大勢でも遊べる愉快な遊びです。

文もない画面ですが、絵の中に書かれているわずかな文字には加古のサービス精神がいきています。サイン代わりの「さ」はタヌキの半纏の背中や提灯に、表紙にある大きな提灯にかかれている「と」「も」はこの本が「かがくのとも」として出版されたからです。最初の場面、山門に吊るされた大きな提灯の「科朋山」は科学の「科」と友、友人を意味する「朋」の組み合わせで、前者と同じ意図があります。

そして、後見返しには、ちょうちんあんこうも登場する徹底ぶりで、その不思議な生態を絵でさりげなく表現しています。どうぞ、ごゆっくり、ゆかいに隅々までお楽しみください。

  『いろいろおにあそび』(1999年福音館書店)

2回に分けて2冊のちょとかわったユニークな科学絵本をご紹介します。
今回は『いろいろおにあそび』(1999年福音館書店)についてです。

ユニークなところ その1:吹き出し

吹き出しの中に子どもの言葉が書いてあって、でもこれは漫画ではありません。れっきとした科学絵本で、しかも本文ではなく表紙、正確にいえば裏表紙です。

表紙はこちら。
『いろいろおにあそび』(1999年福音館書店)とあります。

「いろいろ」といういのは「さまざまな」という意味で、タッチおに、つながりおに、はしらおに、しまおに、くつとりおに、くつかくしといった多種類の鬼ごっこが紹介されている本なのです。そして表紙と裏表紙では「いろおに」の実況中継です。

ユニークなところ その 2:色合い

さまざまな意味とはいえ「いろいろ」とうたい、「いろおに」が表紙や裏表紙に登場し、フルカラーの本なのに、使われているのは非常に色を抑えた画面になっています。「いろおに」でも「黒い」ものに触っていれば鬼から逃れられるという設定で、赤は使われずカラフルな絵本とは異なる雰囲気ですが、これは「しまおに」などを説明する際、地面に描く線を際立たせるための工夫です。

ユニークなところ その 3:鬼のツノ

大勢の子どもの中で誰が鬼なのか、はっきりさせるために鬼になっているこどもの頭に点線でツノを描いています。最後の場面では泥だらけの足で家にあがろうとした、つねちゃんを叱るお母さんにもツノが生えているというオチまであります。

変わったところがたくさんあるこの絵本、これも科学絵本なのかと問うたところ、加古は嬉しそうにコックリとうなずいたのでした。7人の子どもとかっちゃんの犬、クロが遊ぶ鬼ごっこの数々。みなさんも是非お楽しみください。

手袋人形

投稿日時 2023/01/28

小学校時代の冬、手袋は雪遊びの必需品でしたが、室内では「手袋の反対なーんだ?」「ろくぶて!?」と言い合いながら、手袋で人形を作って遊んだものです。

絵本の中にも手袋人形が登場します。うさぎ年の今年、読み聞かせに引っ張りだこの『だるまちゃんとうさぎちゃん』(1972年福音館書店)では、だるまちゃんと妹のだるまこちゃんが、手袋うさぎを作ってうさぎちゃんたちを喜ばせています。

手袋人形に加え、雪兎、新聞紙の兜の作り方や子どもたちが大好きなリンゴで作るうさぎやだるまも出てきます。

手袋人形は遊びの本でも、必ず紹介されていて『とってもかわいいあそび』(2013年復刊ドットコム)の表紙には、両手に手袋人形をつけた子。本文には丁寧な作り方が書いてあります。

『てづくり おもしろ おもちゃ』と英語版『Chock Full o’Fun』(2021年小学館)にも表紙の子どもが持っているニワトリ人形の作り方などが掲載されています。

『こどものあそびずかん ふゆのまき』(2014年小峰書店)も同様で、モヘア手袋のやわらかい感触と色をいかした手袋赤ちゃんもあります。

いずれの手袋人形も加古が作ったものです。

福井県越前市ふるさと絵本館では、3月27日(月)まで「遊び」をテーマにした展示が行われていて、上の写真にある3点を陳列中です。どうぞご覧ください。

加賀乙彦氏を偲んで

投稿日時 2023/01/18

2023年1月、精神科医で作家の加賀乙彦氏が93歳で逝去されました。

加古と氏との出会いは、1950年代、川崎セツルメント診療所の医師として加賀氏が奉仕尽力してくださった時以来で加古の自宅にもいらして下さるなど終生交流が続きました。

2008年の『伝承遊び考』上梓の記念会では、多くのセツラーのみなさんもご参加下さったのですが、氏のお姿もありました。加古との出会いについてユーモアたっぷりにお話しされ、会場をなごませてくださったお姿が懐かしく思い出されます。

その時の記念写真が『伝記を読もう かこさとし 遊びと絵本で子どもの未来を』(2021年、あかね書房)にあります。掲載のお許しをいただこうとお尋ねしたところ、快諾のお手紙をいただいたのですが、加古を「兄さん」と記していただき、感激したものでした。

『別冊太陽 かこさとし』(2017年平凡社 )にも「加古里子さんとセツルメント」をご寄稿下さり、出会いの様子をみずみずしい筆致で再現していただきました。その時には「使い古したチューブから絵の具をひねり出すように書いてみます」とユーモアたっぷりに編集の方におっしゃっておられたそうです。

東日本大震災の折には、電話でお互いの安否を確認し、氏の蔵書が本棚から落ちて大変だったそうだと加古から聞きました。新刊が出ると送ってくださった氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

氏に関しての記事は以下でどうぞ。

加賀乙彦氏 東京新聞

ピアノ

投稿日時 2023/01/13

小学校の音楽の時間にハーモニカを習ったのは筆者の世代で、今ではハーモニカではなく鍵盤ハーモニカをするのだとか。息を吹き込みながら、鍵盤を弾くとハーモニカと同じ原理で音が出るのだそうです。

鍵盤といえば昭和30年代、40年代は子どもにピアノを習わせることが流行というか、憧れの生活スタイルと考えられていたようなところがありました。書道やそろばんを習い事にする子どもも多く、スイミングスクールが広まる前の時代のことです。

『でんとうがつくまで』(福音館書店) の裏表紙のこの絵はまさにその昭和時代の憧れの暮らしの一コマのようです。ピアノではなくその脇で輝いているスタンドの電灯やシャンデリアがこの科学絵本のテーマ、電気と関係するのですが、猫がいて魚の骨マークにかこのサインでもある[さ]のマークがついたピアノに目が行ってしまいます。(オルガンにも見えますが、本文の絵ではアップライトピアノとして描かれています)

科学絵本『だんめんず』(1973年福音館書店)は、ほぼ同時代の作品で、ご覧のように表紙には、グランドピアノの断面図がドーンと描かれています。

木を切り出してから、ピアノが出来上がるまでが物語になっているのは『まさかりどんがさあたいへん』(1984年・1996年小峰書店)です。多種類の工具で木が切り倒され製材されて、椅子やグランドピアノが出来上がり、ロボットちゃんの演奏で終わります。

グランドピアノが表紙を飾る絵本『しらかば スズランおんがくかい』(1986年偕成社)は、あとがきにあるのですが「カナダやシベリアの動物や植物」が登場し、雪解けで現れた不思議な箱から出てきたものがいったい何なのか考えをめぐらせます。

イスなのか、机なのか?
怖さ、恐ろしさ、びっくりが色々あって、これが「おとをだすおもちゃ」だと判明。

厳しくも美しい自然の移り変わりを背景に動物たちがピアノを囲み、素敵なメロディーが聞こえてくるような心温まるファンタジーです♬

卯年の干支探しーその2ー

投稿日時 2023/01/07

うさぎはお子さんたちも大好きなので、脇役として登場する絵本は沢山あります。

デビュー作品『だむのおじさんたち』(1959年福音館/復刊ドットコム)では、山奥で測量をする人を遠巻きに見るウサギがいることで画面が生き生きしています。

『ゆきのひ』(福音館書店)のこの場面はまさに「〽︎ウサギ追いし かの山」の様子で、「うさぎとりのわなをしかけ」るのを見ているうさぎ、逃げるものもいて、雪の降りやんだ青空が眩しく感じられます。

一方、下は『地球』(福音館書店)の一場面。きつねの様子を伺うウサギが木の根元にいます。
むしろここでは「うさぎのよこっとび」をご紹介したいと思われます。

『ことばのべんきょう』(福音館書店)は動物たちが人間と同じように暮らす様子を描き、小さいお子さんが言葉を覚えるための4冊シリーズの本ですが、ここでもうさぎちゃんたちが活躍します。

実際のウサギではないのですが題名にうさぎが出てくるのが『うさぎぐみとこぐまぐみ』(1980年ポプラ社)です。
「しんまちほいくえん」の「うさぎぐみ」は「こぐまぐみ」より小さい子たちの組で、そこにダウン症のショウタちゃんが入園してきました。ある日のこと、ショウタちゃんは「こぐまぐみ」の子たちが作っている砂場の山にジョウロで水をかけてしまいケンカが始まります。

止めにはいった「こぐまぐみ」のせいちゃんは一番力の強い子ですが、実はせいちゃんのお兄さんもダウン症で水をかけたショウタちゃんのことをかばったのです。このことをきっかけに、せいちゃんがお兄さん思いの優しい子だとみんなにわかりました。

保育園では色々なことがあって少しづつ大きくなってゆく子らの姿が描かれる「かこさとし こころのほんシリーズ」の第一巻です。SDGsという言葉が使われるはるか前に執筆されたものですが、まさにそれがテーマとなっています。

 卯年の干支探しーその1ー

投稿日時 2023/01/01

あけましておめでとうございます。

新年恒例の干支探し。
卯年は『だるまちゃんとうさぎちゃん』(1972年福音館書店)の笑顔から始めましょう。

南天の赤い実を雪ウサギの目にしたり、松や竹を使ったウサギ雪だるまは縁起が良さそうでお正月にピッタリですね。

登場するのがうさぎと美味しそうなパンのみという絵本は『うさぎのパンやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)です。
お店の制服や白衣姿のうさぎさんの可愛らしさと、パンの種類の多さが人気です。

白衣姿といえば、『くもとりやまののイノシシびょういん』の看護師のうさぎさんを忘れてはなりません。

不調やけがの患者さんに問診するイノシシ先生の温かみあふれる様子が魅力的で、看護師のうさぎさんも思いやりあふれています。心に効くお薬のような7つの小さなお話です。

2021年に刊行された本書はその年度のベスト新刊部門の第3位でした。(以下でどうぞ)

くもとりやまのイノシシびょういん

『パピプペポーおんがくかい』では、かわるがわるさまざまな動物が舞台で歌や踊りを披露しますが、うさぎちゃんたちは、その名も「パピプペポンマーチ」を」元気よく熱演。

このうさぎちゃんたちのように、笑顔で元気よく過ごせる一年となりますようご祈念申し上げます。

(1)に引き続き『かこさとし あそびの大星雲6 やすくておとくなあそび』(1992年農文協)からの話題です。

この本は上にあるようなダジャレたっぷりの場面もあれば、ねずみ講のしくみ、あやしい しょうばい、株の うりかい 証券ごっこ、けいえい ゲームなど、見出しを見るだけで大人も興味がわく内容です。

その中から「みっつの くにの けいざい せんそう」を全文ご紹介します。

(引用はじめ)
1
せきゆが でる ひろい さばくの くにと、
むぎが たくさん とれるのはらの くにと、
よい じどうしゃを つくる やまの くには
たがいに それぞれの できたものを うり、
ないものを かって なかよくしていました。

2
ところが やまの くにだけが だんだん
ゆたかになるので のこりの ふたつの くには
そうだんして、 やまの くにに うる ねだんを
たかくすることにしました。

3
やまの くにでは たちまち ものの ねだんが
あがったので、 みんなは せつやくして 
つかわないようにしました。
けれども たべものだけは どうしても いるので、
しかたなく たかい むぎを かったため、
つくっている じどうしゃの ねだんも たかくなりました。


4
さばくのくには じどうしゃが たかくなると
つかわないので、せきゆが うれず こまりました。
のはらの くにでも、むぎを はこぶ 
じどうしゃだいが たかくなり、せっかく
ねあげしたぶんの りえきが なくなってしまいました。

5
それで みっつの くにとも まえより くらしが
わるくなり、ひとびとが くるしみ
だんだん ふまんが おおきくなって とうとう
みっつの くにとも ほろびてしまいました。
(引用おわり)

値上げが続くこの頃、よく耳にするインフレ(ーション)。

子どもに説明するとき役立つのが『かこさとし あそびの大星雲6 やすくておとくなあそびーお金と経済のからくりー』(1992年農文協)です。
「パンツのインフレーション」という見出しで、分かりやすい例を用いて説明がされ、その最後はこのように結んでいます。

(引用はじめ)
このように いるものが すくなくて ねだんがあがり、かえなくなってしまう こまった ようすを インフレーションといいます。
(引用おわり)

インフレーションの次には、2020年11月6日の当サイト「編集室より」で取り上げた「えんぴつのデフレーション」の解説が続きます。

 『かこさとし 人と地球の不思議とともに』(2017年文藝別冊 KAWADE夢ムック)に「かこさとしの経済学ーその人と作品から」を寄稿している鈴木愛一郎はこの本(『やすくておとくなあそび』)の読者に向けて次のように語っています。

「なぜ自分の国だけで作らないで貿易をするのか?なぜのびる会社とおとろえる会社があるのか?なぜ望まなくてもインフレやデフレが起きるのか?・・そこにはこれまで人間の社会や歴史を動かしてきたお金の世界の大きなテーマがかくされています。この本(『やすくておとくなあそび』)にはそうしたテーマを考えるきっかけ、ヒントがたくさんつまっています。ぜひ、子どもも大人もいっしょになっていろいろ考えてみてください。」

2020年11月6日の当サイト「編集室より」は以下でどうぞ。

やすくて おとくなあそび

か・こ・さ・と・しの絵本(2)

投稿日時 2022/12/14

【さ】『サン・サン・サンタ ひみつきち』(1986年・2019年復刊ドットコム)

クリスマスにはこの一冊。しかしながら、クリスマスを迎えるために、北の果てにある秘密基地で人知れず行われている作業のお話でもあるので、一年中そばに置いておいて見ていたい絵本でもあります。

それはそれは沢山のおもちゃとオーロラが描かれた、かこさとし、とびきりのファンタジーをお楽しみください。

【と】『トントンとうさんとガミガミかあさん』(1982年・2005年ポプラ社)

トントンと扉をたたくお父さん、いつもはガミガミのお母さん。そのお母さんが病気になってしまって、お父さんは、トントンと野菜を切り食事つくりに精を出します。

そんなお父さんを見て小学生のともゆきくんと妹のさあちゃんは、入院したお母さんの代わりに家事をしようと思いお父さんから調理の仕方を教わります。

かこは、この本のあとがきで、家庭での食事つくりに関して次のように書いています。
(引用はじめ)
その結果として家族交流とだんらん、そして健康が確保されるのですから、それこそ時間や労力や金銭をさいても入手したい「すばらしいこと」と思います。
しかもそれは毎日、各家庭の台所で展開されるとき、かならず生活をともにしている子どもたちはその様子
に接します。その見聞、におい、ふんい気、手順、手さばき、そうした人間行動の背後にある心づかいや配慮、おもいやりや心くばりを食欲の満足とともにつよくふかくきざみつけます。これは料理の本や講習会でつたえられぬ家庭の教育の賜物です。
(引用おわり)

【し】『しっこのしんちゃん じまんのじいちゃん』(1985年ポプラ社)

かこさとしが、時代に先駆けて心の問題をテーマにしたシリーズの1冊で、オネショの悩みについて取り上げた異色の絵本です。
幼稚園に通うしんちゃんは、よくオネショをします。小学校に上がる前の夏休み、海のそばのおじいちゃん、おばあちゃんと暮らし、身体も心も強くたくましくなってオネショも卒業します。

「オネショは、子どもの心ばかりでなく、親の子どもに対する考えや生活態度を反省し検証する、とても大事な道しるべ」と、あとがきの言葉にあります。

最後の2冊に登場する祖父母による支えにも考えさせられます。